まーくんが先に出かけた後、とりあえず出来たての歌をスマホで録音した。
なんかイマイチ納得感がない。いい感じなんだけど、あと一歩なにか足りないような…。
モヤモヤする俺は菅田に聴いてみてもらうことにした。

「え。二宮くん、歌作ったの!」

菅田はめずらしくテンション高めに、「早く聴きたい!」と電話の向こうでうれしそうな声を上げてくれた。ちょっと照れてしまう。

「まだ、すっごい荒削りだよ」
「いいの、いいの。今日も会えるかな?」

前のめりな菅田の勢いに押され、その日のバイトを少し早めに終わらせてもらった。
いつもの場所まで早足で向かっていた駅前で、突然、

「おい」

声をかけられ、パーカーのフードを掴まれた。「ひゃあぁ!」と、びっくりして立ち止まった。

「…え、本郷?」

パーカーを掴んだのは、なんと本郷だった。
思いがけなくてぽかんとする。えりかちゃんの盲腸以来だ。

「ひ、久しぶ…」
「おまえ、道端で歌ってるだろう、菅田と」

挨拶もなくいきなり本題に入るのは、まあ通常通りとはいえ、その内容に少しビビる。
路上ライブのこと、なんで知ってるんだ?

「なななんで」
「バイト帰りに見かけた」

そうだった。こいつ駅前の本屋でバイトしてたんだった。そうか、今もしてるんだ。
でも、別に悪いことしてる訳じゃないし。そもそもそんなに歌ってないもん。てか、なんなんだよ。

「…だからなに?いいじゃん、別に」

言葉こそ強めに返してるけど、声は小さくなっちゃう。だって本郷って、相変わらず仏頂面で怖いんだもん。

「本屋のバイト女子の間でも話題になってたぞ。かわいい子が二人、歌ってるって」
「マジ?」
「プレゼントもらったろ」

ドキッとする。
そうなんだよ、ついこの間ね。すっごいうれしかった。たとえ菅田のおこぼれでもさ。俺の歌でも、誰かの心にちょっとでも引っかかったのかもしれないと思えたから。

「あんまり調子に乗ってチャラつくなよ」

思わずニヤけた俺に、本郷の冷たい言葉が突き刺さる。言い方な!そしてそのコワイ三白眼なんとかしてくれ。心の中ではぶうぶう文句を垂れるも、声に出しては言えない。

「なんだよぅ、調子になんて…」
「遅い時間にフラフラするな。また変な奴にからまれるとめんどくさい」

俺は女子高生か。はたまたおまえは俺の母親かっての。ほっとけよ!
……そうツッコミたいところだが、実際そういう変なヤツから助けてもらった事がある身としては、言い返すわけにもいかず。

「気をつけまーす」

それだけ言って、俺はその場から逃げ出した。