路上ライブが終わっても、女子のお客さんはなかなか帰らなかった。きっと熱心なファンなんだろう。高校の時もファンが幽霊部員になって、菅田がたった一人で活動してた軽音部は、同好会から部に昇格したって言うし。
菅田は全員平等に笑顔と気遣いをみせ、みんな満足そうに、そして名残惜しそうに帰っていった。俺はヤレヤレとため息をついた。

「相変わらずだなぁ。そんなんじゃ由里子ちゃんに嫌われるんじゃないの」

由里子ちゃんというのは、菅田がずっと好きだった同級生。一度告白してフラれ、もう一度再挑戦するも色良い返事は貰えてないようだった。

「いや〜、どうかな?由里子ちゃんは今も二宮くんのこと好きだと思うし、たぶん全然大丈夫」

…そうなんだよ、なんか俺のことが好きだったらしいんだよな。よくわかんないけど。
菅田は「こう見えて気は長いんだ、俺。あきらめずにがんばるよ」と笑った。なんて答えたらいいやら…。俺は黙ってギターを片付けるのを手伝った。座り込んだ俺の目線に合わせてしゃがんだ菅田が優しい声で言った。

「二宮くんは?あのイケメン先輩さんと上手くいってる?」

顔をのぞき込まれて耳が赤くなる。
まーくんがみんなの前で俺とのことを宣言しちゃったからさ。今更隠しようがない。

「ん…まぁ。そこそこ?」

そう答えてチラと菅田を見たら、焦点が合わないくらい近くに顔があってビビる。このシチュエーション知ってるぞって思った瞬間、俺の口元でチュッと音がした。

「ちょっと!やめろってえ!」
「あ、ごめん…」

おいおいおい、なんで菅田のほうが驚いた顔してんだよ、おかしいだろ。前チューされた時は由里子ちゃんがゲンコツ食らわしたんだった。

「…いゃぁ、可愛いなあって。気がついたらしちゃってた。ごめん」
「そーゆーとこだよっ!そんなだから由里子ちゃんに嫌われるんだって」
「反省してます」

しょぼくれる菅田を見てると、しょうがないなと思えてしまう。憎めないんだよな、こいつ。でもチューは勘弁してくれ、マジで。

「俺、ここで時々ライブしてるから。また来てよ。一緒に歌お」

菅田にそう言われて、胸の奥がじわと熱くなる。人前で歌ったのは初めてだった。きっと音程も外してたと思うし、下手くそだっただろう。
でも、なんか、気持ちよかったんだよな。

「二宮くんの歌声、初めて聴いたけど、俺すごく好き。今度はギター持ってきてほしいな」

菅田がふわふわ嬉しそうに笑う。
俺は言われるがままに連絡先を交換していた。