まーくんにも誘ってくれる友達がいるんだなぁ。そりゃそうか。あんないい人、誰も放っておかないよな。どっちかというと陽キャだしさ。
高校の頃もいつも誰か彼かに囲まれてた。
クラスメイトとか生徒会のメンバーとか。
俺はそんなに友達が多いほうじゃないから、ちょっと眩しかった。
そんな気持ちを思い出して空を見上げたら、夕闇迫る薄い雲の向こうにぼんやりと滲んだ月が浮かんでいた。
「…つまんないの」
俺はポケットに両手を突っ込んで、くるりと向きを変え、目の前のバス停にちょうどやって来たバスに乗り込んだ。そして、賑やかな駅前でなんとなく降りる。
大きな本屋にでも行こう。大学の生協のブックセンターでも買えるけど、カフェ併設の本屋さんに行ってみたくなったんだ。なにかいつもと違う事をしてみようかなって。
その時だった。
てろてろ歩いている俺の耳に、聞き覚えのある声が流れてきた。
「あれ?」
ギターの音色に乗って、優しい歌声が聞こえてくる。見れば、ビルの一角に小さな人だかりができていた。路上ライブだろうか。歌っているのは…。
「……え。菅田くん?」
菅田は、高校の時に俺にギターを教えてくれた同級生で、めちゃくちゃ女子にモテまくってた少し変わったヤツ。軽音部所属で、ファンの子みんなと堂々と付き合うというとんでもない事していたけど、最終的に本当に好きな子に告白して…確かフラレたんじゃなかったっけ。
「あぁ〜!二宮くん!?」
歌声に引き寄せられて人だかりに交じっていた俺に気がついた菅田が、人懐こい笑顔で大きく手を振ってきた。周りの人に注目されて俺はもじもじ後ずさる。
「ほら、こっちこっち」
そんな俺の腕を掴んで、菅田は人の輪の中から俺を引っ張りだした。そして、相変わらずの少し関西っぽいふわふわした話し方で、
「一緒に歌お〜!」
「は、はあ?」
「二宮くんが練習してた曲だから大丈夫」
いやいや、何言ってんの。
無理だよそんなの、無理だって。
そう言ってるのに、菅田は楽しそうに歌い出し、俺に笑いかけてくる。見てるお客さん?も手拍子するし、逃げ出すこともできず、俺はヤケクソ気味に歌っちゃったよ。
二曲ほど付き合わされて、ライブはお開きになった。お客さん達に拍手をもらって、わけもわからず頭を下げた。