夕ごはんの後も、まーくんはパソコンとにらめっこで、ぶつぶつ独り言を言っていた。
俺はいつの間にか寝落ちていたようで、まーくんがちゃぶ台を寄せて敷いてくれた布団に促され、ふにゃふにゃ潜り込んだ。
半分寝たまま、あちこちまさぐられて変な声が出ちゃったよ。けど、完全に目が覚めないまま眠り込んでしまった。


………なんか、音がする。
なんだっけ、よく聞く音。って呼び鈴!?
そう思った瞬間飛び起きた。
横を見ると、俺の腰の辺りに腕を絡めたまーくんが小さないびきをかいている。
あれ、今日は早朝ランニングしてないんだ。
とか思っているうちに、なんとドアの鍵が開けられる音がする!うそだろ!?

「まままーくんっ…」
「んー…?」

寝ぼけてる場合か、ドロボーだって!
俺はまーくんにすがりついて、ゆっくり開くドアを固唾を呑んで見つめた。

「あら、居たの?」

玄関に現れたのは、まーくんのお母さん。
突然の母親の声にまーくんが跳ね起きた。

「母ちゃん!?なに?なんで居るの」
「チャイムいくら鳴らしても返事がないから留守かと思うじゃない」
「ちが、ちがーう!なんで鍵持ってんの、なに開けてんの!?」

混乱して質問が止まらないまーくん。
手は無意識なのか、俺と布団をかき寄せてる。頭での理解が追いつかないでいた俺は、そこでようやくハッとした。
昨日はシて…ないよな。
揉めているまーくん親子の横で、急いで周りを目だけで確認する。いや、まず俺、ぱんつ履いてる?裸じゃなくてよかった。ゴミ、てか丸めたティッシュとかそこら辺にないだろな。
ドキドキして冷や汗が滲む。

とりあえず、俺達どちらかが女の子じゃなくてよかった。一緒の布団でくっついて寝てたって、そんなの昔からだし、見慣れた光景だもん。びっくりされずに済んだ。
でもヤバかった。焦ったあ。

「おばあちゃんに頼まれちゃって」

まーくんのおばあちゃんが膝を痛めてしまったので、代わりに新しい鉢植えをもって来てくれたんだって。ついでに掃除でもと合鍵を預かってきたらしい。

「朝なら会えるかもと思って。ほんとにかずくん一緒なのねぇ、お母さんから聞いてるわよ〜。雅紀じゃ頼りないないんじゃない?ていうか、学校は大丈夫なの、あんたたち」

そういえばもう9時過ぎてるじゃん。
少なくとも俺は1限死んだな。

「いいんだよ、そんな心配しなくてっ。もう子どもじゃないんだからさぁ」

まーくんは布団から出ると、お母さんを玄関の外に追い立てた。よかった、まーくんもぱんつ履いてた。ぱんつとTシャツだけだけど。
そして、「ありがとねーありがとうねー」とほぼ棒な言葉で手を振って、

「鍵!絶対すぐにばあちゃんに返してね!そんで、来る時は絶対連絡してっ」

とキッチリ釘を指した。
お母さんは「メールしたのにー」って言いながら帰っていった。なんか悪いことしちゃったな。
布団に戻ってきたまーくんは、頭をばりぼり掻きむしってケータイを確認。

「ほんとだ…、メール来てた」

そのままヘナヘナ布団に座り込んだ。
ガックリうなだれるまーくんの頭を膝枕してあげて、俺もしばしボーゼンとした。