本日の講義を全部受け終えて、売店でバイト。
商品並べたり、在庫チェックしたり、もちろんレジで接客したり。
忙しさもほどほどで、店長さんのおばちゃんもすごいいい人なので居心地は悪くない。もう少し時給が高かったら完璧なんだけどなーとも思うけど、それは贅沢ってもんだろう。
「これ、持って帰る?」
おばちゃん店長が賞味期限切れそうなサンドイッチをコソッと俺のカバンに入れてくれた。俺はニコッと笑って、ありがたくいただいておく。
今日はまーくんが先に帰っているはず。締め切り間際の課題があるとかで、珍しくバイトを休んでるんだ。あぁ、俺もレポート提出しなきゃなぁ。
外は七時前なのに、まだ夕焼けの空が薄明るかった。夏が近いんだな、てか既に夏かも。今日も暑かったし。
アパートへの帰り道、小さい商店街はおいしそうな匂いで溢れてて俺のおなかがぐぅと鳴る。揚げたてのコロッケ買っちゃおうかなとお肉屋さんの店先を覗いたり、焼き鳥か迷ったり。お財布と相談しながら歩く。
母さんのおかずはもうないから、今日は夕ごはんを準備しなくてはならなかった。
「ただいま〜」
玄関に靴はあるのに返事がない。
部屋を覗くと、ちゃぶ台の上のパソコンに乗っかるようにしてまーくんがうたた寝をしていた。
俺は音を立てないように気をつけて、温かいコロッケを台所に置いた。
冷蔵庫の中にさっきのお肉屋さんで買ったらしい包みが入っているのに気がついた。何か作るつもりだったんだな。
俺はとりあえずごはんを炊く準備をした。
それから俺もパソコンを出して、できるだけ静かにキーを打った。
「………ん、れ?」
だいぶ経って、まーくんが目を覚ました。焦点の合わない、ぼーっとした瞳がウロウロして、ようやく俺にピタリと止まる。まーくんが俺を見て「かずぅ」と、にっこり笑った。
そこで急に真顔になり、バネ仕掛けの人形みたいにバタバタ慌てだした。
「いま、今何時?俺、寝て…」
「まーくん」
「夕飯!!作んなきゃっ」
「まーくん、落ち着いて」
俺はまーくんに擦り寄ってぎゅうと抱きしめた。
大丈夫、時間はたくさんあるよ。
ここには、お風呂に入れって急かす母さんも、いつまでもゲームしててうるさいって文句を言う姉ちゃんも居ないんだ。
まあ、課題の締め切りはあるけどね。
「なに作るつもりなの?」
「しょーが焼きっ」
「いいね、俺、まーくんの生姜焼き大好き」
一緒に暮らすようになって、よく作ってくれる生姜焼き。生姜がピリッと効いて…かなり効いてておいしいんだよな。
その日は生姜焼きとごはんとコロッケ、それにサンドイッチが並ぶという不思議な夕ごはんになった。なかなかのボリュームなせいか、まーくんが生姜焼きを残してしまった。
課題が気になるみたい。
俺は洗い物を引き受けて、まーくんには作業に戻ってもらう。
残りは明日の朝食べよう。