「遅くなってごめんね」

まーくんの優しい声に、俺はただただコアラのようにしがみついて顔を擦りつけた。なにか答えようとするとほんとに泣いてしまいそうで恥ずかしい。親の帰りを待っていた子どもかよ。

「カレー、作ってくれたんだ?」
「………ん」
「ありがとっ、いい匂いする!」

そう言われて心の中でへへっと思ったところで、大変なことに気がついた。

「そうだ、お米!炊いてない!」
「ぐふふっ」
「すぐ、すぐ炊かないと…」

慌てる俺の顔を両手で包んだまーくんが、ちゅっと唇を啄んだ。「かーわいっ♡」って、いや、急いでんのよ俺。てか、今絶対語尾にハートついてただろ。

「ゆっくりやろ。今日は帰んないでしょ?」

……そうか。
慌てなくていいんだ。時間はいっぱいあるのか。そう気がついて、俺の身体から力が抜けていく。と、ぐうぅーと鳴るおなか。

「ハハッ、やっぱ少し急ごっか」

まーくんに笑われてつい口が尖る。その口をまた啄んで、

「なになに、イチャイチャするほうがいいの?俺はそれでも全然構わないけどっ」

なんて鼻の下を伸ばすから、「バカじゃないの」と頭をひと叩きする。ちゅーをせがんだ訳じゃないっての。おかげで涙はどこかに行っちゃった。

それから二人でわぁわぁ言いながら夕ごはんの準備をした。
ちゃぶ台にようやく並んだカレーライス二皿。まーくん家の食器棚の奥で眠っていたお皿やコップ、百均で買ったスプーンなんかで、家具同様バラバラだけど、これが二人だけの食卓だと思うと胸がいっぱいになった。

「いただきます」

二人で声をそろえる。
湯気の向こうにまーくんの笑顔。
俺はこの夕ごはんを一生忘れないだろう。

カレーはね、おいしかったよ。
ちょっと焦げてたけどさ、問題なし。カレーってやっぱ最強だな!