部屋の中はカレーの匂いで満たされていた。
カレーってすごいよな。何を入れても間違いなくカレーになる。
ルゥの箱に書いてあった基本材料と、あと俺ん家のカレーに入ってるトマトを入れてみた。母さんはそれに更に赤ワインを入れてるらしいんだけど、お酒は買うのがめんどいからパス。
とにかく鍋に全部つっこんで、炒めて、とにかく煮た。ルゥも一緒に入れちゃったからか、なんかすごくドロドロで、底の方から焦げてるっぽいから必死で混ぜまくった。
ルゥって最後に入れるんだったんだ。作り方を見直して笑ってしまった。
でも大丈夫!なんとかなった!
どー見ても立派なカレーだ、うん!

お鍋の火を止めて、ひと休み。
ちゃぶ台の前に座りまーくんのクッションに顔を埋めてふんふんする。
急に部屋が静かになって、外で遊ぶ子ども達の声が耳に届いた。

早く帰って来ないかな…。

今日買ったたこ足配線のコードにゲーム機を繋いで、電源をいれたもののめずらしく気が乗らず、俺は床に敷かれたラグの上に寝っ転がった。
そして、ケータイでバイト情報をながめた。

ひと月どれくらいお金がかかるんだろう。

お金のことはきちんと話さないとダメだよと言った姉ちゃんの顔が思い出された。
わかってるよって口を尖らせながら、ケータイの画面をタップする。
そこから記憶があやふやになった。
慣れない料理のせいで疲れたのか、俺はいつの間にか寝落ちていたようだ。


「……かず、かず!」

う、おぇ?
まーくんの声に飛び起きる。
もう外は暗くなっており、カーテンが開いたままの窓に部屋の灯りが映っていた。

「こんなところで寝て…風邪ひくよ」
「あ、うん。俺、寝ちゃってた?っけ?」

まだ頭がスッキリしなくて、ちぐはぐな受け答えになってしまう。まーくんはちょっと笑って、俺のほっぺたについていたらしいヨダレを手のひらで拭うと、俺を腕の中にきゅっと抱きしめてくれた。

「…おかえりぃ」

俺はずっと言いたかった言葉を口にした。
やっと言えた。
少し涙声になってしまった。