───せいさんの家族は二人のこと、どう思ってるの?

こんな言葉が喉元までせり上がる。
聞いちゃダメかな、聞いてみたいな。
コーヒーのカップを両手でギュッと抱えていたら、気がついたまーくんが「どした?」と顔を覗き込んできた。
せいさんは俺たちを見て微笑んだ。

「まぁ、焦ることはないんじゃない?」
「せいさんんとこは、マスターとの事知ってるんでしょ。なんか言われないの?」

わわわっ、まーくん!
あっさり聞いちゃったよ。さすがだな。
びっくりしてコーヒーを吹きそうになったじゃん。

「うちは兄弟多いし、俺一人何してたって親はぜーんぜん気にしてないからねぇ」
「へえぇ、そうなんだ!」
「ヒデのご両親が生きてたら、何か言われたかもしれないけど。ま、言われてもヒデは頑固だから、なんにも変わらないと思うよ」

せいさんがコーヒーを淹れているマスターに目を向けると、まるで呼ばれたみたいにマスターが「なんだ?」という顔でこっちを見た。

「なにか余計なこと言ってるだろう」

マスターのムスッとした顔に、せいさんが上手なウィンクで返し、マスターはやれやれとため息をつている。なんだかんだ仲良いよなぁ。
せいさんはまた俺たちに視線を戻して言った。

「きっと時間がかかるんだよ、こういう事は。こちとら30年選手なんだからね。焦ることないし、二人がちゃんと向き合ってれば大丈夫」

そうかな。そうなのかな。
大先輩が言うんだからそうなのかも。

「でもニノちゃん、お父さんが帰ってくるんなら、相葉ちゃんと一緒に住むのを少し遅らせてもいいんじゃない?」

せいさんに至極真っ当な意見を出された。
学校も始まったばかりだし、バイトも考えなきゃならないし、なにも慌てることないんだ。
自分でもそう思うよ。
だけど、あの鍵を手にしたとたんに、もう待ちきれない俺がいる。
せっかちなのはまーくんだと思ってた。
俺も実は相当なせっかちだったんだと驚いてるくらいなんだ。