まーくんのおばあちゃんのアパートは、最寄り駅の前にあるこじんまりとした商店街を抜けた先に建っているという。

大学が近いせいか、学生向けっぽい小さなアパートがそこここにあり、小綺麗なものから古いものまで様々。俺は商店街で匂いに負けて買ったコロッケをまーくんとかじりっこしながら、ほわほわ歩いていた。

「ここだよ、ばーちゃんのアパート」

そう言われてたどり着いたアパートは、古いほうに分類されるタイプだった。四部屋ずつの二階建て。二階へは年季の入った錆びた階段で上がっていく。
敷地のあちらこちらに、キレイな花が咲く植木鉢が飾られていて想像していたのより華やかだ。なんでもまーくんのおばあちゃんが時々やって来ては置いていくから、どんどん増えているらしい。

「だいぶ古いけどさ、悪くないと思うよっ」

まーくんがちょっと早口で俺の手を引いた。
そして、二階の一番奥の部屋のドアを開け弾んだ声で言った。

「俺たちの部屋にようこそ!」

そこはまだなぁんにも置かれていない、カランとした四角い部屋で、カーテンもないからとても明るかった。前の住人が退去するとリフォームされるとかで、白くてキレイだ。
俺は「わぁ……」と言ったきり、言葉がでなかった。

ここから始まるんだ。

そう思うと、そのなんにもない空間に早く何か、二人のものを置きたいという不思議な焦燥感に襲われた。

まーくんは俺の背中を抱くようにして部屋の中に招き入れると静かにドアを閉めた。
次の瞬間、俺はキスされていた。
強く抱き込まれて息が苦しい。
でも俺も、負けじとまーくんの背中に回した腕に力を込め、ギュッとしがみついた。

後で気がついたけどさ。
ドア閉めたって、カーテンないから窓から丸見えじゃん!
だから「まずカーテン買わなきゃ」って、俺が言ったのに、まーくんは「やっぱ、布団だろ」なんて笑ってる。なんでだよ、なに考えてんだよ。

「だって、畳の上だと、かず痛くない?」

なんて、ごく真面目に言われて。
イケメンなんだかスケベなんだか。
とりあえず、初のひと叩きをしておいた!