「実はね、えりか…今朝からあんまり調子良くなさそうだったんだよね。いや、昨日から食欲あんまりなかったかも」
せいさんがぐしぐし泣く。
「本人が大丈夫って言うから…俺も仕事に行ってしまって。今日は急に休む子がいて、そっちに気を取られてたんだ」
俺がちゃんと見ていれば。
もっと早く気づいてあげてたら。
何かあったら俺のせい。
せいさんは完全に自己嫌悪の塊になってしまってる。「そんなことないよ」「大丈夫」と俺とまーくんで必死に慰めたけど、せいさんのガックリ落ちた肩は上がらなかった。
内側も外側も完全に「男」でありながら、えりかちゃんのために「女」になるとまで言ったせいさん。「ママ」としての役割を果たせなかったと悔いている様子は、充分「ママ」してると思うけどなぁ。
二人でどうしたものか顔を見合わせていると、マスターが早足で戻ってきた。
「おい、なに泣いてるんだ。個室お願いしたからな。おまえ、絶対部屋から出るなよ!」
そう言ってせいさんの腕を取り、大股で歩き出す。そして振り向いたマスターは、「二人ともありがとうな!今度お礼するから」と手を振って去っていった。
俺たちはポカンと見送った。
つまり、個室を選ぶ事でえりかちゃんの不安も、せいさんの寄り添いたい気持ちも解決したってこと?マスター、やるなあ!
「……マスターって、イケメンだよね」
「え、なに急に」
「だってカッコイイじゃん」
「え、えぇ!?かず、まさか…」
「なに慌ててんの」
バカじゃないの。
そーゆー事じゃなくて。
マスターはせいさんのヒーローだなって言ってんの。もっとも、あの二人の場合、どっちもお互いのヒーローなんだよね。
そこんところがいいんだよなぁ。
「まーくんは俺のヒーローでしょ?」
そう言ったら、わかりやすくまーくんの顔がぱあっと明るくなる。そしてわかりやすく俺を手元に引き寄せ、ギュッと抱きしめてきた。
ホントは俺もまーくんのヒーローになりたいんだよ。あの二人みたいに。
その気持ちを言葉にはせずに、俺はまーくんの背中に腕をまわした。