狭い長椅子の上で全身でのしかかってくるから、ちょっと焦る。
そりゃ久しぶりで…っても三日かそこらへんだけど、俺だってまーくんにくっつきたいよ。でも待て待て!場所考えろって。
と、口を塞がれて言えない俺は、必死にまーくんの背中をたむたむ叩いた。
「…だって、かずが足りないんだよ」
生きていく上で、絶対必要な要素があんの!って黒目がちな瞳をうるませてまーくんが囁いた。
わかるよ、それは俺だって同じ。
大昔二人でひとつだった俺たち(たぶん)は、くっついていたくて当然なんだ。でもふたつに分かれてしまった今は、四六時中一緒って訳にはいかないわけで。
「…人目につくとメンドイじゃん」
「大丈夫!時間外の待合室はあっちの夜間受付窓口の前だから、誰も来やしないって」
ホントかよ。
そう思いながらも、流される俺。
まーくんの大きな手がじかに背中に触れ、それから胸のほうへ回ってきて、俺は小さく震えた。
たまらずそのアヤシイ動きをする手を押さえる。
「ね、ねっ、さっきのさ」
「…なに」
「話があるってなんだったの」
「しーっ!うるさい口だな」
「でもさ、気に…ちょっ、ヤダっ…んん」
ヤバい、ヤバいってぇ!
こんなとこでドコ触ってんだよっ。
さすがに突っぱねようと力を入れたところに、なにやら言い合う声が近づいてきて、その声に驚いたまーくんが長椅子から転げ落ちた。
「痛ってぇー」
「え?相葉くん?」
見ればそこにはマスターとせいさん。
せいさんは荷物で溢れる大きなカバンを肩からかけ、乱れた髪の毛で息を切らしている。
勤め先の美容院から駆けつけたてきたって感じだ。俺は慌てて床に尻もちをついてるまーくんの背中に隠れた。薄暗くてよかった。いろいろバレるとこだった。こんな時、男の身体ってめんどくさいっつーか不便だと思う。
まーくんがチラリと振り向いて「ダボダボのパーカー着ててよかったねっ」と言ったから一発頭を叩いておく。誰のせいでこんな恥ずかしいことになってんだっての。
しかしそんな俺たちのしょーもない小競り合いなんて意味なかった。
なぜならマスターとせいさんは、俺たちのことなど忘れたみたいにまたごちゃごちゃ言い合いを始めたからだ。