「あんなふうに相手のストライクゾーンのど真ん中に、ガンガン直球ストレートぶっ込んじゃダメって言ってんのっ」
はあ?
なんで野球の話?
「今の本郷見た?ノックアウトだっただろ」
「どこが?めっちゃ怒ってたじゃん」
まーくんは俺の顔をまじまじ見てから天を仰いだ。そして俺の手をしっかり握る。
「あのさ、かずがわざと相手の気を引いてるとは思ってないよ。けど、相手によってはマジに受け取るかもしれないんだって」
俺は心配なんだと真剣な顔で言われて、俺はまごついてしまう。そんなだった?俺。
まーくんは、本郷が俺のこと好きなんだって言うけど…いや、嫌われてはないと思うよ。なんなら好きなんだろうとも感じてる。
でも、まーくんが言う「好き」とはちょっと違うと思うんだけどな。
「……気をつける」
俺はおとなしく頷いた。
イマイチなにを気をつけるのかわかんないけど。
そう思ってるのがバレバレなのか、まーくんははぁーとため息をついた。
「本郷だけでもこうなのに…ホント、身体がいくつあっても足りないよ。ずっと見てるわけにもいかないんだからさあ」
なに、その子ども扱い。
信用されてないみたいじゃん。
まーくんは俺の保護者かっての。
「…別に頼んでないし」
ちょっとモヤモヤして言い返したら、みるみる青ざめる顔。え、そんな?
更に強く手を握られて痛い痛い。
「や、ちが、ちが、ヤダとかメーワクとか言ってんじゃないって」
「……言ってるし」
「違うって」
涙目になってるから俺も慌てる。
「そうじゃなくて。まーくんが言ってるのが心のキャッチボールだとしたら、俺はまーくんにしか本気のボールは投げないってこと!」
「……へ」
「そりゃ、あちこち投げてるように見えたかもしんないけど、俺は!まーくんしか見てないし、まーくんのココしか狙ってないよ」
そう言って、まーくんの心臓の辺りに頭を擦りつけた。ほんとは人差し指をビシッと突きつけたかったんだけど、なにしろ手が自由にならないんだもん。
「…………」
返事がない。ただのしかばねのよう…じゃなくて、まだ怒ってるのかと、そろりと頭をあげようとすると、コツンと何かに当たった。たぶんまーくんの顎。
「あ、ごめ…」
「かずぅ!!」
急に手が自由になったと思ったとたん、ものすごい力で抱きすくめられた。
もうホントに力加減バカ男、息が苦しい。
と、するりと大きな手が俺のほっぺたに触れて、今度こそ息ができなくなってしまった。
キスの合間の息継ぎって、どこですりゃいいんだろ。未だによくわかんないや。
「……ストライク」
そう囁かれてようやく息継ぎ。
なんか俺、絶好球投げたらしい。
「じゃあ、ノックアウト?」
うれしくなってニマニマしたら、勢い長椅子に押し倒された。なんでだよ、俺がまーくんを倒したんじゃないの?
てか、待合室だよ、ここ!