「相葉くんはさあ、ほんとがんばり過ぎるからさあ!壊れるまでやりかねないじゃん。そーゆーとこもバカだっての」

うう。言い返せない。
足の裏とか膝とか、痛いかなーとか思うんだけど、つい練習に夢中になっちゃうんだよな。
それにしたってバカバカ言い過ぎじゃない?
顔を両手で挟まれてるので下を向けず、しょんぼり目をそらした。

「ま、それが相葉くんのいいとこなんだけど!やっぱ俺が見とかないとなー」

なんだかうれしそうにそう言うから、俺はもう一度かずくんの目を見た。
そうだよ、俺のことずっと見ててくれないと。かずくんじゃなきゃダメなんだよ、俺。
また視界がボヤけてきた。
鼻をすすったら、かずくんが笑ってほっぺたに当てていた両手で顔全体をわしゃわしゃした。

「ほら、開けて!」

急かされて、スポーツ店のロゴ入りの袋を開けてみた。中には靴の箱。更に開けてびっくり。俺が欲しがっていたスニーカー?
でもそれは、有名ブランドだからむちゃくちゃ高くて中学生の俺らには手が出ないヤツ。

「えっ、これ……」
「すごいでしょ!って言いたいとこなんだけど、ゴメンね、ホンモノじゃないんだ」

かずくんはいたずらっ子みたいな顔で「ゴメンね」ともう一度繰り返した。「ホンモノはめっちゃ高いんだもん」と、ちょっと眉を下げた。
違うよ、責めてない。ホンモノじゃなくたって高そうな靴だから、どんだけお小遣い使ったんだって心配になったの!
俺のためにそんな…。
だってついこの間、新しいゲームを買ってお小遣いがピンチとか言ってなかったっけ。

「これ、どうしたの、ゲーム買って金欠だって嘆いてたのに。大事にしてたお年玉使っちゃったの?」
「そうだ!あのゲームめっちゃ面白いから、今度一緒にやろっ」
「そうじゃなくて」
「あ、でも受験勉強始まるのかぁ」

かずくんがふわふわ質問をかわすから、俺は靴を抱いたままかずくんの手を握って、

「どうしたの?」

と、かずくんとしっかり目を合わせた。
俺のガチな態度に諦めたのか、足先をもじもじさせながら、かずくんが話し出した。

「えっとねぇ、お家でフロ掃除してお駄賃もらってたんだけど足んなくてぇ、途中から華ちゃん家でバイトしてたっ」

ええ!
そういえばよくフロ掃除してたけど、そのためだったなんて考えもしなかった。
いや、それよか、黒木華のとこでバイト!?

「バイトってなんの?」
「ん〜、畑仕事のお手伝い」
「ははははたけしごと!?かずくんが!?」
「前に言ったじゃん、華ちゃん家のレストラン、無農薬の野菜とか作ってお店で使ってるって。華ちゃん、その畑仕事手伝わされてで日焼けするのがイヤなんだってよくボヤいててさぁ」
「その日焼けする畑仕事をかずくんがしたってこと!?この暑い中!?」

確かにこの頃ちょっと日焼けてたかずくん。
まさかそんなことまでしてたなんて。
日に焼けると赤くなってヒリヒリするから苦手なのに。俺はショックでクラクラした。