ヘンじゃないよ。
大丈夫、絶対そんなことない。
キスはさ、したいと思う人、ほんとに好きな人とすればいいんだからさ。

そう言うと、かずくんは頭を俺の肩にコテンと乗せて小さく頷いた。そのしたい相手が俺になるといいんだけどな。言えないけど。

「それで、『お誕生日によその人と一緒な彼氏はいりませーん』ってわけ?」
「まぁ、そだね。『大事な試合についてこない彼女もいりませーん、でしょ』とも言ってた。どっちも華ちゃん、いたずらっ子みたいに笑ってた」
「……そっか」

かずくんは振られたと言ったけど、ちょっと違う気がする。黒木華の健康優良児みたいなツルツルの笑顔を思い出しながら、そう思った。

「そんでね、『二宮くんも、自分の気持ちをよぉく考えた方がいいと思うよ!』って言われたんだよね。どういう事なのかなぁ…」

すんなりキス出来そうな相手、いるんじゃない?

とも言われたらしい。
………ってどういうこと!?
それって、誰のこと言ってる??
まさか…。

「誰だと思う?」

なんて、無垢な子どもみたいな顔でかずくんが聞いてくる。
そんなこと、なんで俺に聞くんだよ。
階段を駆け上がった時みたいに心臓がバクバクして、息が苦しい。
ねえ、俺の事言ってんの?
黒木華が言ってるのは俺で合ってる?それとも違うのかな。
もしそうなら「俺だろ」って言ってみたい。
黒木華が北川景子の唇に触れてみたいってことに、特に抵抗も感じてない様子のかずくんだもの。俺がかずくんに同じこと感じてるって伝えても大丈夫な気もする。
言っちゃうか。
冗談っぽく?いや、ガチモードか?
あぁでももし笑い飛ばされたら。
俺、立ち直る自信が無いな。

ごちゃごちゃ考えていたら、ぐぅーとおなかが鳴る音がした。
その音に我に返ってかずくんのおなかを見る。
かずくんが「んふふ」と照れ笑いをした。

「おなか、すいちゃった」

その顔を見たら、なんだか急に肩の力がぬけてしまった。