かずくんは握っている俺の手を、なだめるように軽く振った。
「なんで相葉くんが泣くの」
「………泣いてねぇし」
「俺、ガッカリしてないよ。華ちゃんに『大好き』って言われたから」
「…は、はぁ?」
大好き?大好きなのに別れるの?
俺が驚いて目を白黒させると、かずくんも「なんで振られたんだろねぇ」と他人事みたいに笑った。
「別に振らなくてもよくない?ただの憧れかもしれないんだしさぁ、気持ちがハッキリするまで、俺はこのままでも構わなかったんだけど」
いや、構うだろ!構えよ!
そんな中途半端な宙ぶらりん、おかしいって。
それとも別れたくないくらい黒木華が好きってこと?そういうこと?
「そう華ちゃんに言ったらさ、すっごい顔を近づけてきて」
「えっ、まさか…」
一瞬ふたりがキスしているところを想像してしまって、またしても気分は乱高下。顔が強ばる。
「まじビビった。チューするかと思ったもん」
かずくんが俺の顔を見て笑った。
俺もホッとしてぎこちなく笑った。
「んで、わたしとキスしたいと思った?って聞くの。俺、困っちゃって…」
そりゃ興味はあるんだよ、俺だってと、かずくんは顔を赤らめ、「でも心構えがいるじゃん」と自信なさそうに眉を下げた。その顔が小さい頃のかずくんみたいで抱きしめたくなる。
よく聞くと、どうも黒木華は元カレのせいで、男はみんな煩悩の塊で、相手構わずそういう事がしたいものだと思っていたようだ。
一体どこのどいつだよ、そんな偏見植えつけたヤツは!とりあえずぶん殴ってやりたい。
「二宮くんって、ふたりきりでいても無理強いしてこないでしょ。わたし、すごくうれしくて居心地よくて」
でもキスしたいまでいかない。
そういう「好き」とは違うみたい。
二宮くんもそうなんじゃない?
「そうなの?」と俺は聞かずにはいられなかった。かずくんは「うーん」と首を傾げて、
「よくわかんないけど、華ちゃんと口をくっつけるとか…想像つかないかな。俺ってヘン?」
心配そうにそう言うから、俺はたまらずかずくんを抱きしめた。