「保健室の先生は『大丈夫だよ』って言ってくれたんだって」
思春期の頃にはそういう事もあるんだそうだ。
元々同性に興味があるわけではなくても、惹かれる瞬間はあるらしい。
つまり、黒木華にとって北川景子はとてつもなくステキだってことなんだろう。男子たちが「高嶺の花」って、ちょっとビビるくらいだもんな。
まぁ、俺の好みじゃないけど。
そう心の中でうんうん頷いて、あらためて目の前のかずくんを見つめる。俺の好みは一択だからな。
「華ちゃんは、『わたし、景子ちゃんみたいになりたいだけなのかも』って言うんだ」
それくらい憧れてんだねって、かずくんが少し笑った。
「だから、華ちゃんは華ちゃんのままでいいんじゃない?って言っといた!それに彼氏なんかに気を使って遠慮することない、居たいだけ一緒にいればいいじゃんって。したら、自分の本当の気持ちがわかるかもしれないでしょ」
かずくんは優しい。
どこまでも優しくて、俺のほうがモヤモヤする。
「……それだけ理解のある彼氏なのに、かずくん、振られたわけ?おかしくない?」
「ハハッ、たしかにっ」
今の「おかしい」は「変」ってイミなのに、何笑ってんだよ。笑うとこじゃないだろ。
「だって、黒木華のほうから付き合おうって言ってきたんだろ。なのに黒木華はかずくんのこと好きじゃなかったってこと!?」
「えぇ?」
「なんだよ、それ!」
仲良かっただろ。
日焼けするくらいしょっちゅうデートしてたんじゃないの。
俺は気になってしかたなかったんだぞ。
ヤキモチ妬いて、たまんなくてバスケに打ち込んで……そんな毎日だったのに。
「相葉くん、なんか怒ってる?」
「おこ、怒ってねーし!」
「怒ってるじゃん」
「そうじゃなくてっ。そっちから誘っておいて、今度はいりませーんってさあ!」
あんまりだろ、おかしいだろっ。
かずくんのこと、なんだと思ってんの。
いや、待て待て、ふたりが別れて喜ぶとこなんじゃないか、俺。万々歳じゃないか、俺!
そのはずなのに、無性に腹が立った。
俺の大事なかずくんが蔑ろにされたみたいで、なんか悔しい。
「かずくんはそれでいいわけ!?かずくんは…」
黒木華のこと好きなんじゃないの?
そう聞きたかった。
けど聞きたくない。
知りたいけど知りたくない。
俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。
急に黙り込んだ俺をかずくんが小首をかしげて見つめていた。