「相葉くんはさぁ、誰かとチューしたいと思ったことある?」

かずくんの話に前のめりになっていた俺は、イキナリの展開にそのまま固まってしまった。
なになになに?突然なに、なんの話?
かずくんは上目遣いで俺を見ている。

そりゃあるよ!なんなら毎日思ってるよ。
こうやってかずくんと見つめあってさあ、思わないわけないだろ。
……なんて、さすがに言うことも出来ず。
「ま、まぁね」と言葉を濁した。

「その相手が男子だったらどうする?」

俺はとっさに口を押さえた。
さっきの心の声が漏れでちゃってた!?
見知らぬ冷たい手に心臓をするりと掴まれて、全身が震えてしまいそうだ。

「どうしていいかわかんなくなるよねぇ。華ちゃんもすごく困って不安になったんだって」

はなちゃん?
なんだ、黒木華の話だったのか。
…って、ええ!?どういうことだ。
もう気分はジェットコースター。
俺はようやく唾を飲み込むと、もう一度かずくんの手をギュっと握りなおした。

「自分はおかしいんじゃないかって、保健室の先生に相談したんだって」

黒木華が中学に入って出会った北川景子は、キレイで優しくて、頭も良けりゃ、スポーツも万能、まさに憧れの人そのものだったと。どこか男気があるサッパリした性格が黒木華の心を鷲掴み。
その理想の権化である彼女が、自分の親友になって有頂天になっていたら、ある日ふと気がついた。

あのふわふわのピンク色のくちびるに触れてみたいなぁ……

そんなことを思った自分に驚いた。
これまで好きになった相手はみんな男の子だったし、女子相手にそんなこと考えたこともなかったから。自分は一体どうしたんだろう。

そんなふうにモヤモヤ悩んでいたら、北川景子に高校生の彼氏ができて、親友の自分との時間が減ってしまった。

「減ったって言ってたけど、あの様子だと華ちゃんが勝手に気を使って減らしてたんだと思う」

かずくんが優しい目をしてそう言った。
そっか。そうかもしれないな。相手のこと、よく見てるみたいだし。

「モヤモヤで眠れなくて、具合悪くなっちゃって保健室に行った時に、先生に話したんだって」

よっぽどだったんだろな。
俺は小さい頃からかずくん一筋で、それが当たり前で自然なことだったから、悩んだことがない。
考えてみれば、好きになった相手が男の子だったわけだから、俺も黒木華みたいに悩むのが普通なのかもしれない。
だけど、迷ったことがないんだよな。
気がついたらもう隣りにいた。
運命だと思ってるよ、俺は。