「華ちゃん、一緒じゃないんだ…」
そんな言葉が口から転げ落ちて、自分でびっくりした。頭の中では「観に来てくれてありがとう」とか「いや〜負けちったぁ」とか考えてたのに。
緩んだ涙腺をごまかしたいからって、なに言ってんだよ、俺は。
「華ちゃん、今日お誕生日なの」
「……えっ」
「そんで、景子ちゃんと遊園地デート」
あ、あぁ。そういえば黒木華、北川景子と遊園地行きたそうだったもんな。まぁ、よかったじゃん。
けど、彼女の誕生日に一緒に居ない彼氏ってアリなのか?まさか俺の試合を優先してくれたとか?
そんな淡い期待に胸がちょっとドキドキした。
いや、まさかな。そんなこと、あるわけな…。
「俺、振られちゃった」
………………は?
「『お誕生日によその人と一緒な彼氏はいりませ~ん!』だって」
はあああああ!?
待て待て待て、俺のせい?
いや、マズいって!それはダメだろ。
そりゃかずくんに彼女が居ないほうがいいに決まってるけど、俺の試合が原因なんて。
俺は目を剥いてかずくんを見た。
かずくんは笑っていた。
え?振られたんだよね、なに笑っちゃってるの。ショックでおかしくなっちゃった?
俺はかずくんの肩を掴むと、目の前の公園のベンチまで引っぱっていった。
「ちょ、ちょっと、落ち、落ち着こう!」
「何が?相葉くんが落ち着きなよ」
「いやだって、え?どういうこと?」
頭が混乱する。アワアワする俺のほっぺたに、かずくんがリュックから出したジュースをくっつけた。
「うわ、冷た!」
「そう?なかなか体育館から出てこないからぬるくなってると思うけど」
一緒に飲もうと、表彰式のあと買ったんだって。
でも俺はそれどころじゃなくて、かずくんの手ごとジュースを掴んで、かずくんの膝に置かれた大きな袋の上に押しつけた。
「ちゃんと話してよ」
俺はすぐ目の前の、かずくんの茶色の瞳をじっとみつめた。同じように見つめ返されて、心臓が三段跳びを始める。ほんと、キレイなんだよな。
やがて目を細めて、かずくんが話し出す。
「あのね」
公園は元気な蝉の声でうるさい。
俺は聞き逃すまいと、かずくんの口元に集中した。