強い。強すぎだろ。
さすが優勝候補筆頭チーム。
序盤から差をつけられて、全く追いつけない。
あぁ、これが漫画なら主人公が神みたいな技を繰り出して気持ちよく優勝でエンド!なんだろうけどさあ。現実はそう甘くはなかった。
俺たちは必死にコート内を走り回ったが、点差は開くばかりだ。焦りからみんな浮き足立っているのがわかる。
試合中、俺は全くコートの外を見なかった。
観客席にかずくんがいるのはわかっているけど。
必死過ぎて、見る余裕もなかった。というか、見る勇気がなかった。きっとかずくんは祈るように応援してくれてる。背中に視線はずっと感じていた。
だけど。
こんな姿を見られるなんて。
俺は「いつもカッコイイまーくん」でいたかった。かずくんのヒーローである自分でありたい。
あのキラキラする茶色の瞳を見たいんだ。
しかし、世界は残酷だよな。
点差を縮められないまま、試合は終わりを迎えてしまった。無情のホイッスルが鳴り響いて、俺たちの二位が決定した。チームメイトがガックリ座り込む中、俺はただ棒立ちしていた。
俺の夏は終わった……。
表彰式のあと、「よく頑張ったよ、俺たち!」と半泣きの仲間たちの肩をたたいて回るのに忙しい。
ホントにがんばった。だから悔しいんだよな。
俺はなんで涙が出ないんだろう。
どんな大会でも思うけど、一位と二位の間には飛び越えることのできない深い深いマリアナ海溝みたいな溝がある。
二位だってすごい事なんだよ。
なのに、すごく辛い。
なんなら三位決定戦に勝って、三位になったほうが嬉しいかもしれない。
そんなことをぼんやり考えていたら、コーチが解散を言い渡して完全に大会終了。
賑やかな観客たちが帰り、選手たちが立ち去り、静かになった体育館。こんなに広かったっけ。
ぼーっと見回して、かずくんの姿が見えないことに気がついた。
ほかの観客たちに交じって帰っちゃった?ガッカリしたかな。そうだよな…。
気分がますます落ち込んでしまう。
すごく会いたいのに、姿が見えないことにどこかでホッとしてる自分もいた。
俺はぐずぐず居座って、仲間たちが帰るのを見届けてから外に出た。
「まーくん」
呼ばれて顔をあげると、少し離れたところにかずくんが立っていた。こんな時に「まーくん」って。なんだよ、なんか泣けてくるだろ。
俺は応えることが出来ず、黙ったまま立ちすくんでいた。なにか、なにか応えなきゃ。頭の中では必死に言葉を探しているのになにも出てこない。
するとかずくんがふわふわとした足取りですぐ側まで来てくれた。
「お疲れ様っ」
かずくんの笑顔がめちゃくちゃ眩しかった。