コーチから集合がかかった。
もう試合が始まってしまう。
俺は沈み込む気持ちをなんとか引っ張りあげようと顔を上げた。

「あ」

マヌケな声が出てしまって、チームメイトの注目を集めてしまったらしいけど、その時はそんな事には気がつかなかった。
かずくんがいる!
いつもと変わらない涼しげな様子で、体育館の入口を入ってくる。手にはなにやら大きな袋。
キョロキョロしてる姿も愛おしい。
そこでボーゼンと見つめている俺に気がついて、ニコッとうれしそうに走り寄ってきた。

「相葉!早く来い!始まるぞ」

コーチに呼ばれて、俺はかずくんに手を振ってバスケットコートに走り込んだ。
ヤバかった。コーチが呼んでくれなかったら、あやうく泣いちゃうとこだった。じゃなきゃ、飛んでいって抱きしめてたな。
かずくんが来てくれた!
もうそれだけで、気分は急上昇。
底の底まで落ちてた分、一気に天どころか宇宙まで昇れそうだ。

その勢いで準決勝は大差で快勝。
このまま次は決勝戦。
相手は優勝候補のチームだ。
俺はタオルで汗をぬぐって、スポーツ飲料をゴクゴク飲んだ。その合間にも目でかずくんを探す。
かずくんはスポーツ用品店で貰うような大きなビニールの袋を胸に抱いて、俺と目が合うと大きく手を振ってくれた。
くうぅ、可愛いゼ。
そこでふと気がついた。
あれ?黒木華がいない。いや、いなくていいんだけどさ。ありがたいんだけどさ。
絶対一緒だと思ってたからちょっと意外。
そんなことを考えていたら、かずくんが手を添えて口をパクパクさせるのが見えた。

『がんばれ』

声はなくても俺にはわかる。
俺は力強く頷いた。

俺の中学最後の試合が始まる。