日焼けが痛くて、イマイチすっきりしなかったな。さすがの太陽も力尽きたのか、空に一番星が輝いている。風間に「ばいばーい」と手を振って、かずくんと二人で家路につく。

俺はかずくんに向かって無意識に手を差し出そうとしてふと気づく。
いつもなら俺が手を差し出すと、当たり前のように手を繋いできたかずくん。それがいつもの俺たち。
だけどもう『彼女』持ちのかずくん。
もうナイのかな。ダメなのか。
そもそも中学生男子二人、なかよく手を繋いで歩いてるってのがヘンだったのかもしれない。全然考えたことなかったけどさ。
さっき繋いでくれたのは、お化け屋敷だったからだし、ごく普通に道で手を繋ぐなんて、黒木華も面白くないよな、きっと。

そうかぁ、そうだよな。
ああぁ、つまんない事に気がついちゃったなあ。

俺はガッカリして、出しかけた手を引っ込めようとした。すると、かずくんが腕を絡めるように俺の手の中に自分の手を滑り込ませてきた。
ちょっとひんやりしたかずくんの小さい手。
俺の心臓が飛び跳ねる。

「もう大会目前だね」
「お、おぉ。絶対勝つよ」
「応援に行くからねっ」

顔が近い。
すぐそこで茶色の瞳がキラキラしてる。
俺だけが映っていると思っていた瞳。
胸が痛い。痛いよ、かずくん。
気を抜くと泣いてしまいそうだ。

なんで『彼女』なんかいるんだよ。
今、こうしてる俺たちのほうが恋人っぽいだろ。
このまま二人で走ってどこかに行ってしまいたいような衝動に駆られ、繋ぐ手に力がこもった。

「勝ち続けたら決勝戦はいつになるの?」
「え、あ、えっとね…」

現実に引き戻され、試合日程の話になった。
かずくんは決勝戦の日を暗唱してみせて、少し何か考えているみたいだった。
デートの予定でもあったのか。
「なんかあんの?」と、つい声が尖る。

「んーん、なんでもない」

かずくんはニコッと笑うと耳打ちするみたいに更に顔を寄せてきた。

「がんばってね、まーくん!」

ちょっ、ズルいだろ!
こんな時だけ「まーくん」とかさあ!
俺が文句を言う前にかずくんが走り出す。
ころころ笑う声が風に乗って流れていく。

俺のやる気のツボをとことんわかってるのが少しばかり悔しいけど、まさにかずくんの狙い通り、俺の心はファイトに満たされた。

「絶対優勝するかんな!」

かずくんが強く手を握り返してきた。