結果的に二人のデートを完全に邪魔してしまった俺と風間。さすがに帰りは遠慮しようと思ってたんだよ。これはホント。
だけど駅からの帰り道、一番近かったのが黒木華の家だったから、言い出す前に着いてしまった。
黒木華の家は表側がこじんまりとした可愛いレストランだった。今日は定休日なんだな。

「今度食べに来てくださいね!お父さんがご馳走しますから」

黒木華はニコニコしてそう言ってくれた。
なんでも本当は今日、ランチボックスを用意しようかと考えてくれていたらしい。ただあまりの暑さと荷物になるからというのでやめたんだって。
普段ファーストフードとかラーメン屋くらいしか行ったことがない俺たち。見た目からオシャレなレストランに俺と風間は顔を見合わして、ぎこちなくお礼を言った。余裕なのはかずくんだけだ。
そっか、食べたことあるんだもんな。

「じゃーねぇ」

かずくんが手を振る。
黒木華は大きく手を振り返して笑顔で俺たちを見送ってくれた。

今日一日、なんだか別世界にいたような気がする。
女の子がいるだけで随分雰囲気が変わるんだと知って、少し複雑な気持ちになった。
ずっと一緒だったのに。同じ道を歩いていると思ってたのに。かずくんだけ離れていってしまうような、そんな気がして不安になる。

ほんの少し前を歩くかずくんは鼻歌を歌っていた。

離れたくない。
その手を離したくない。

「ニノぉ、今日はごめんね、邪魔しちゃって」
「なんで?楽しかったじゃん」

夕暮れの涼しい風の中、頭をかきかき謝る風間にかずくんが笑いかける。
見慣れた風景。いつもの俺たち。
ふと思いついて、

「よっし!銭湯寄ってこう!!」

俺は大きな声で宣言した。
「はあ?」「暑かったのにまた熱いお風呂?」とかごちゃごちゃ言う二人と無理やり肩を組んで、よく行く銭湯に向かって走り出す。
ぶーぶー文句を垂れつつも、笑い声が漏れる。
かずくんの細い腕が俺に絡みついて、半分抱きかかえるみたいにして走った。
そのまま三人で賑やかに銭湯になだれ込んだ。

「お前たちゃ、いつも騒がしいなぁ」

番台のおじちゃんに小言を食らうまでがセット。
いつもの銭湯。いつもの俺たち。
変わってない、変わらないよな?
彼女がいるのがなんだって言うんだ。

俺はかずくんの手をしっかり握った。