お化け屋敷に一歩入っただけで、もう帰りたい。
暗いし冷房が効きすぎなのか妙に寒いしなんか不気味な音までするし。
ここら辺からなんか飛び出してくるんだろ、いや、こっちか!?肌寒いのに脇汗が滲む。
「相葉ちゃん」
「うわっ!!ななななんだよっ」
「ビビり過ぎだって。まだ入ったばっかだよ」
「ビビビビってねぇし!」
虚勢を張る俺に風間がため息をつく。
「黒木さんなんか全然平気そうだけど」と、前を行く二人を目で指した。
俺はそれを横目でチラリと確認する。
だってかずくんと黒木華、手を繋いでいるんだ。
お化け屋敷の中のカップルなんだから、そーなるよな。そうだよな。そうなんだけどさ。
しかたないとわかっていても、あんまり見たくない。俺はしょんぼりと一人で手に汗をかいてる。
「怖いなら俺と手、繋ぐ?」
心配そうに風間が言ってくれた。気持ちはありがたいよ。でもさ、普通やらないだろ。男子中学生二人、お化け屋敷で手を繋ぐって、どんなだよ。
二人でコソコソ話していると、
「相葉くん!」
かずくんが振り向いて俺を呼んだ。
そして空いているほうの手を差し出した。
「えっ…」
首から上は戸惑っているのに、身体は勝手に反応して、俺はかずくんの手をしっかり掴んでしまっていた。
それを見てか、風間が「俺も交ぜて〜」とくっついてきて、四人で団子状態になった。
暗い中黒木華の楽しそうな笑い声があがった。
と、通りかかった古いドアから人型のナニカが雄叫びを上げて飛び出してきた。
「ぎゃあああああ!!!!」
四人で悲鳴をあげて逃げ出した。
たまに風間が転んだり、黒木華が前に特攻して行ったり、いびつな団子は伸びたり縮んだりしながら進んでいく。
俺はガッチリかずくんの手を握って離さなかった。
少し汗ばんだかずくんの手。
俺はそれを頼りに、ただもう必死に前へと進む。
狭い部屋で壁中から血だらけの手が飛び出してきた時には、思わずかずくんを抱きしめてしまった。
あとから考えたらヤバかったと思ったけど、それよりも、そんな時でもかずくんのいい匂いに一瞬とはいえ心を持っていかれる俺はもっとヤバいのかもしれない。
もう途中から怖さのリミッターが外れたのか、俺はヘンなテンションになってしまい、
「おらおらおらーーー!!」
と、お化けもゾンビも突きとばす勢いで出口まで突進して、四人で外になだれるように脱出した。
外の明るさに目が痛い。
俺はかずくんの手を握ったまま地面にへたりこみ、風間は肩で息をし、「もー、なんで走るのさぁ」と汗を拭っている。
一人黒木華は、「楽しかったあ!」とほっぺたを赤くして、嬉しそうに俺たちに言った。
「もう一回行ってきていい?」
…………マジか。すげぇな。
俺たち三人は、元気いっぱいお化け屋敷の入口に走っていく黒木華の背中を見送った。