「あれ!?この前の二宮くんのお友達?」
よろめくかずくんより黒木華のほうが先に俺に気がついたらしい。目を丸くして素っ頓狂な声をあげ、それに反応したのか、かずくんが具合の悪そうな青い顔で俺を見た。
「あ、えぇ??」
「かずくん大丈夫!?」
俺はかずくんを黒木華から引き離して腕に抱え込んだ。後ろで風間が大きなため息をついてる。
黒木華は心配そうにかずくんを覗き込んで、「お水買ってくる!」と売店に走っていった。
「あんなスゴイのに乗るからっ」
日陰のベンチにとりあえず座らせ、俺はちょっと咎めるような口調になってしまった。だってこんなぐったりして、無理したに決まってる。
「…………ってば」
「えっ?なに」
「『かずくん』じゃないでしょ」
こんな時になんだよ、全く。そんな口きけるってことはそこまで具合悪くないのかな。
可愛くないこと言うわりに、俺にぺったり寄りかかってくるかずくん。俺はぶぅぶぅ文句言いつつも背中をさすった。
「はいっ、お水!」
赤い顔して走ってきた黒木華からペットボトルを受け取って、かずくんはちびちび飲んだ。
「ごめんね、ジェットコースター苦手だって気がつかないで」
半泣きの黒木華に、かずくんが「もう大丈夫だと思ったんだけどなあ!」と空を仰いで、心配かけたことを謝った。
顔色が戻ってきてホッとしていると、身体を起こしたかずくんが言った。
「……で?なぁんで二人、ここにいるわけ?」
そして俺と風間を交互に見る。
ヤバい。そうだった。
バレるとかバレないとか、すっかり忘れてた。
どうしよう、どうしよう。
焦る俺と風間の目が合った。
「風間ぽんがさぁ、今日どうしてもここに来たいって言うからさあ!」
思わずテキトーな言い訳が口から転がり出た。当の風間は目を白黒させてキョドっている。
俺は目で(ごめんごめん)とめいっぱい伝えて、
「ほら、風間ぽんは遊園地マニアだからすごい詳しいだろ。今日のイベント見たいって言うんだよね」
そう、今日花火のイベントがあるのは嘘じゃない。そして風間がやたら遊園地に詳しいのもホント。
なんでも開園記念だとか、風間が言ってたし。
そりゃどうしても行きたいって言ったのは俺だけどさ。許せ、風間ぽん。
「風間くん、だっけ?遊園地マニアなんだ!」
同じ学年で顔くらいは知っているんだろう、黒木華が目を輝かせた。そして、次々とオススメの場所やら穴場のアトラクションやら、風間を質問攻めにして、大よろこび。
風間は風間で、黒木華からの尊敬の眼差しに気分をよくしたらしく、ノリノリで答えている。
なんだか、そっちのほうがカレカノみたいだ。
呆れて眺めていたら、かずくんがふわりと、また俺にもたれかかってきた。
「大丈夫?」
「うん、もう平気」
平気って言いながらこうやって甘えてくるなんて、ほんと、そういうとこだよな。
しかも俺のウソなんてどうせバレてんだろ。
でもおかげで俺の気まずい気分はあっさりどこかへ消えていくんだ。
俺たちはしばらく黙って身を寄せあったまま、黒木華と風間が盛り上がる様子を眺めた。
「ねえ!せっかくだし、一緒に回らない?」
黒木華が楽しそうに俺たちを振り返った。