かずくんと黒木華。
並んで歩いてるだけでわかる、可愛いカップル。
そしてその二人のあとを距離を置いてコソコソつけていく怪しい中学生男子二人。
ヤバい。もうストーカーまっしぐらじゃん、俺。
自分でも信じられないよ。俺にこんな一面があったなんてさ。
うしろめたいのにかずくんの姿を追わずにはいられない。恋愛ごっこで終わるのか本当に好きになってしまうのか。ここでイチャイチャするんじゃないだろな。真夏のまぷしい太陽の下、俺は真っ黒な気持ちで大汗をかいていた。
黒木華はテンション高くあちこち覗きに行ったり忙しく、かずくんはあんまりいつもと変わらない様子で園内マップを確認したりしてる。はたから見たら間違いなくデート真っ最中って感じ。
だけど、二人は手を繋いでいなかった。それだけが唯一の救い。
なんて思うのも情けないけどさ、あれは俺の大事なクリームパン、もとい大事な手なんだよ。風間にそう力説したら、黙って背中をとんとんしてきたりして、かえってキズつくんだけど!
「次はあれ!あれに乗ろっ!」
それにしても黒木華。
めちゃくちゃパワフルでエネルギッシュ。
健康優良児だと思ったのは、あながち間違いじゃないかも。元気いっぱい、次から次へと乗り物を制覇していく。
そしてついに、この遊園地で最強の絶叫マシンであるジェットコースターに到達してしまった。
「ちょっと待っ…」
思わず二人を止めに入ろうとした俺を、慌てて風間が必死に物陰に引っ張りこんだ。
「ダメだって、相葉ちゃん!バレちゃうよ」
「だってかずくん、あーゆーの苦手なんだって」
「知ってるよ。けどさぁ」
小学校からかずくんと付き合いがある風間も知ってるよな。最近はだいぶマシになってはいるけど、小さい頃かずくんは車酔いがひどかったし、第一とっても怖がりさんなんだ。
あんなの無理だろ。ダメだって。
「ニノだってもう小学生じゃないんだし、女子の前でカッコつけたいかもしれないよ」
ええ?そんなこと言ってもさ。
戸惑う俺に風間が「ほら」と指を差した。
見ればかずくんが黒木華の後についてジェットコースターに乗り込むため、階段をあがってあるところだった。心なしか不安そうに見える背中。
俺は心配で心配で余計に手のひらに汗をかいた。
正直俺も絶叫系はあんまり得意じゃない。
あの腹の底が宙に浮く感じがイヤだし、これでもし俺も乗り物酔いする体質だとしたら絶対乗りたくない。かずくん、大丈夫かな。
遠い頭の上から響いてくる悲鳴が近づいたかと思う間にすぐ遠ざかる。今走っているのに乗っているのか、次のに乗るのか、そしてどこに座るのかも下からでは全然わからなくて、レールの見える範囲をただウロウロ彷徨う。
え?長くない?早く終われ!
自分が乗っているわけでもないのに、まさに手に汗握って二人が降りてくるのを待った。
ずいぶん経った気がした頃、案の定青い顔をしたかずくんが、黒木華に寄りかかるようにして降車口から出て来るのが見えた。
「かずくん!」
もう俺は、風間の制止など振り切って飛び出していた。