週の真ん中、水曜日。
抜けるように青い空にセミの大合唱が響いてる。
平日なのに夏休みの親子連れで賑わう遊園地、俺と風間は入園ゲートの前の植え込みの裏に潜んでいた。今日も暑いな。

「ねぇ相葉ちゃん…。なんなのそのサングラス」
「父ちゃんに借りてきた!」
「まさかと思うけど、変装してるつもり?」
「まさかってなんだよ。そうだ、風間ぽんもこれ、はいっ」

俺は父ちゃんにドンキで買ってきてもらった、おかっぱのカツラを風間に押しつけた。
「うげぇ、気持ち悪っ。やだよー」と、風間は顔をしかめてその黒い物体を押し返してくる。
なんでだよ、そこそこ似合いそうなのにさ。
かずくんならめっちゃ可愛いだろうな。想像して一瞬ニヤケてしまったから、風間に肩を小突かれてしまった。そうだ、ニヤケてる場合じゃない。

この前かずくんに黒木華と遊園地デートをすると聞いた俺は、慌てて風間に相談して、それとなく?いつどこに行くのか聞き出してもらった。
なんだか自分では聞けなかった。風間なら上手に聞いてくれるはず。こいつは人当たりもいいし、器用だから、情報集めたりするの得意だもんな。高校に入って新聞部に所属するとは、この時はまだ知らなかったけど。

「……相葉ちゃんさぁ、ニノとちゃんと話した?」
「話すってなにを?」
「だから、相葉ちゃんの気持ちをだよ」

俺は腹のど真ん中に大きな石でも飲み込んだみたいに、息苦しくなった。
俺の気持ち?今まさに彼女とデートしようとしてるかずくんになにを伝えるって言うんだ。
言ってどうなる?
ドン引きされるか憐れに思われるかだろ。
そんなのどっちもごめんだ。それなら今のままのがずっといい。かずくんの手を離さずにいられるのなら。ただの幼なじみになってしまうけどさ。
俺は無意識に、石が詰まってそうな腹の辺りをさすっていた。

「あっ、ニノたちが来た!」

風間の上ずった声に心臓が跳ねた。
ゲートをうかがうと、かずくんが黒木華と並んで立っていた。なにか楽しそうに話している。

黒木華は真っ白なワンピースに麦わら帽子を被って、やっぱりはち切れそうに元気いっぱいだ。
足どりも軽く、まるでスキップでもしているみたい。なんか、なんか眩しい。

早くも帰りたくなってしまった。
けど、気になる。気になってしかたない。
見たくないのに見ずにいられないって、どういうことなんだろね。
俺は風間の腕を掴んで、植え込みの影から足を踏み出すと、こっそり二人のあとをつけた。