男であるかずくんをなぜ好きなのかと聞かれても、「かずくん」だからとしか答えようがない。
男だから好きなわけじゃないし、もしかずくんが女の子だったとしても、やっぱり好きだと思う。
なんて言うんだろ、その「存在」自体が好き、なんだろな。

かずくんもそうなんだと思ってた。
俺と同じ気持ちなんだって。
だからこのままずっと一緒に歩いて行けるって、勝手に思い込んでた。
そりゃね、かずくんが俺の事好きでいてくれてるのは間違いないと思う。それは絶対そう。
ただ、俺の「好き」とかずくんの「好き」は違うかもしれないっていうオソロシイ事実。
ほんとに、ほんとに今更なんだけど、今回のことでその事を思い知らされる俺って、どうなんだ!?
勝手に思い込んでて、決めつけてて、なんにも考えてなかった超バカな幸せ者。
かずくんの気持ちは?
そんな大事なことも置いてけぽり。

「俺のお嫁さんになる?」って聞かれて、「うん」って頷く幼いかずくん。
その姿が昨日のことのように思い出される。
愛しくて、大事で、大切な約束。

だけど。だけどさ。
かずくんが俺との約束を思い出さないのなら、それはもう無かったことにするしかないのかも。
他の誰かを好きになることも当然あるわけだし、普通に考えれば、女の子を好きになるんだよな。
普通なら。
とすれば、その時は「がんばれよ」って言ってあげるべきなのかも…って、それが今ってこと!?
え、え、え、いや待って。
無理。普通に無理だろ。
あれ?普通?普通ってなんだ!?

頭が混乱してイヤな汗が全身から吹き出した。
さっきまで俺の腕にゆるく絡んでいたかずくんの手が、ずるずる落ちて俺の手の上に重なっているのが目に入る。

この手を離すなんて無理。できないよ。
でもそれがかずくんにとっていい事だったら、俺は……。いや、でも。でも…。
俺の頭は「でも」「いや」のうずまきに占領されて、完全に思考停止。ヤバい、このままでは泣いてしまう。俺はバネ仕掛けの人形みたいに勢いよく立ち上がった。

「俺、家帰って風呂に入る!」
「はぁ?なに、急に」
「俺、汗いっぱいかいて汗くさいからっ」
「ちょっ」

それだけ言って俺はかずくんの部屋を逃げ出した。
挙動不審、意味不明なのはわかってたけど、こんな泣き顔は見られたくなかった。










あぁ、もうぐちゃぐちゃだ。
俺のぐるぐるは無限ループした。