聞きたい事言いたいこと、溢れ返るほどあったはずなのに、いざ、かずくんを目の前にすると言葉が出てこない。なにをどう聞けばいい?
何も言えず、ただ息を切らしている俺を前に、「どうしたの?」と不思議そうなかずくん。
いつもと変わらない丸まっこい喋り方。茶色の優しい瞳もいつも通りで、ちょっと甘えたな感じで俺に向けられている。
女の子とイチャついたようには見えないけど。
でもそういうものなのかもしれないし。
「なんかあっ…」
「華ちゃんとうまくいってる!?」
急にせり上がってきた空気の塊を吐き出すように言葉が口から飛び出して、かずくんの言葉を遮ってしまった。かずくんはびっくりしてるけど、俺だってびっくりだ。
「はあ?いきなり何なの」
「だからっ、ししし心配してんのっ。女の子と付き合うなんて初めてだしさ」
「初めてじゃないもん」とかずくんは口を尖らせるけど、それ、幼稚園の時のさっちゃんのことだろ。俺は特にカウントしてないけどね。
「きのう華ちゃん家に行ったって」
「なんで知ってんの?」
「え」
ヤバい。
風間にかずくんたちを見張らせてたなんて知られたら、もう口をきいてくんないかも。だから慌ててぐーぜん風間が見かけたってことにする。
かずくんは「???」と首を傾げてるけど、そんな事はどうでもいいから教えてよ。
「えー?特になにかしたってわけじゃないし…」
一緒に夕ごはん食べたんだって。
なんでも黒木華の家は、小さな定食屋さんをやっていて、近くに無農薬野菜の畑も持ってるんだそうだ。おーがにっく…とかナントカ。
親がお店で忙しいから、黒木華の部屋で二人で食べたという。部屋で!?二人っきり!?
「どどどどーだった!?」
「薄味だけどおいしかったよ」
「あっ、いやそーゆんじゃ…」
「あとね、夏休みは畑仕事手伝わされるから日焼けて嫌だって言ってた」
「そーじゃなくて!」
俺たち中学生だよ、思春期真っ盛りだよ?
そんなこと聞いてんじゃないのよ。
「部屋で二人きりになったんでしょ?」
「うん。なったよ」
「したらさ、なんか…」
さっき頭の中に駆け巡ったヤラしい想像がまた湧き上がってきて、俺は口ごもった。
かずくんはきょとんとしてる。
「女の子と二人きりなんだし、ちちち、ちゅうとか、したくなんないの」
俺は必死に言葉を絞り出して、かずくんの反応をうかがった。