急いで帰ってきて、冷房もつけてない暑い部屋の中、俺は汗だくでかずくんの話に聞き入った。
うるさいはずのセミの声も遠く感じた。
「あたし、誰かと付き合いたいんだよね」
黒木華は手元のポスターに目線を落としながらそう言ったという。
「なんで?」
かずくんの「なんで?」は、なぜ付き合いたいのかでもあり、なぜ自分なのかでもあったらしいが、黒木華は質問を質問で返してきた。
「二宮くん、北川景子って知ってる?」
「えっと、A組の子?だっけ」
「そう。あたしの親友なの」
一年の頃から同じクラスだったという北川景子。
三年生の俺でも知ってるキリッとしたキレイな女子で、サバサバした性格なのもあって、男子からも女子からも好かれる、ちょっとしたスターだ。
その北川景子に彼氏ができたという。
「それも、相手は高校生だよ!」
黒木華はガックリうなだれた。
「景ちゃんはすっごく美人で、すっごくカッコよくて、すっごく優しくて、あたしの憧れなんだ。親友だっていうのは変わらなくても、なぁんか置いてかれちゃったみたいで」
寂しいんだよねと。
「二宮くん、誰かと付き合ったことある?」
「んーと、幼稚園の頃なら」
「なにそれ、それあり?」
「でも小学生になっても、その事でよく冷やかされてたもん」
へえぇ、やっぱり二宮くんって変わってる。
そう言って黒木華はまた笑った。
「で、あたしも付き合ってみようと思って。でも、中学生男子って超ガキか、スケベ丸出しバカしかいないじゃない」
かずくんは「ひどぉー」と苦笑い。
「一度好きだって言われて付き合ってみたけど、なんか鼻息荒くてうんざりした。目がギラギラしてるっていうか、常に隙を探してるみたいな感じで」
超ガキタイプじゃなくてスケベタイプだった。
けど、二宮くんってどっちでもないよね。
ガキでもないし、落ち着いてるし、なにより男臭くない!と黒木華は断言したと。
うーん、それって褒めてんの、ディスってんの。
かずくんがどう受け止めたのかわからないけど、俺的にはまぁ頷けるかな。イタズラ小僧の時は全然落ち着いてないけどね。
「そういうわけっ」
以上!と感じでかずくんが俺を見た。
は?いや、ちょっと待て。
「そういうわけってなんだよ。全然わけわかんないって。かずくんは華ちゃんのこと好きなの?」
「うん。可愛いし」
なんの照れもなく、スルンと出てくる言葉。
いや、それじゃまるで犬好きなのって聞かれた時の返事のテンションだろ。
好きな人のこと話すんなら、せめて赤くなるとか、目がキラキラするとかなるもんじゃないの。
俺はいつだって、かずくんのこと考えるだけでドキドキするよ。大好きだし、ちょっとエロい事考えちゃったりするし。それが普通なんじゃないの。
だからって、そんな顔で他の人のこと好きって言われたら、凹んで立ち上がれないけどさ。
そうなんだけど、なんか話を聞いたのに、かえって混乱してしまう。
「えっと、えーっと、ちょっと待って。かずくん、華ちゃんに好きって言われたんだよね?」
「どうだったっけ?でも付き合いたいってそういう事でしょ」
「そう、そうなんだけどさ…」
なんだ、この会話。
なんかしっくりこないなあ!
俺はどう受け止めればいいんだよ。
やっぱり頭を抱える俺に、かずくんは小首をかしげ明るく言った。
「付き合うってどんなだろって、ちょっとワクワクしない?って言うからさ、俺もそういうお年頃なんだし、面白そうかな〜って思って」
……そこに愛はあるんか?
どっかのCMのフレーズが頭をよぎった。