顔を上げない俺に、風間が焦りだす。
「相葉ちゃん?もしかして泣いてる?」
泣いてねーよ。
けど、泣きたい気分だよ、マジで。
ガックリ落ち込む俺の耳は、そんな時でもぺたぺたと近づいて来る聞きなれた足音を拾い上げた。
「相葉くん?」
かずくんがドアから顔を覗かせる。気がついていなかった風間は、その声にびっくりして尻もちをついた。俺は顔だけでなく首の辺りまで熱くなるのを感じた。きっと真っ赤なのバレてる。
「どうしたの、めずらしいじゃん」
「おおお俺だって、図書室に用くらいあんだからなっ。バカにすんなよ」
「なぁに、それ」
ああぁ、何言ってんだ俺。バカだろ。
なのに、口元に手を当ててくふふと笑ってるかずくんが可愛くてしかたないとか、ほんとバカだ。
「かずくんに彼女いる説」を問いただすためにここまで走ってきたのに、肝心なことが聞けない情けない俺。
風間がなにやらオロオロと喋りかけた時、かずくんの後ろから黒木華がぴょこりと顔を出した。
「誰?」
「んーと、友達?」
「なんで疑問形なの」
「友達っていうか…」
なんて、二人で話してる様子に俺はキレた。
「今日帰りに絶対体育館に迎えに来いよ!一緒に帰るかんな!」
そう言い捨てて、俺は猛スピードで階段を駆け下りた。ああぁ、大人げない。自分でも呆れる。
けど、大人じゃないんだからしかたない。
だって友達って言ったんだよ!
いや、友達っちゃあ友達だけど、なんかさ、もっと言い方あるだろ。なんかスゴく嫌だった。
俺とかずくん。
ただの友達じゃないよな!?
一気に体育館まで戻って、外の水道の下に頭を突っ込んだ。冷たい水で頭を冷やしたかった。
置いてけぼりをくらった風間がようやく追いついてきて、「もー、ひどいよぉ」と息を切らしながら、隣で水道の水を飲んだ。
びしょびしょになった俺を見て、「泣いてるの?」って言うから、とりあえず一発どついといた。
泣いてない。
これは涙じゃなくて水なんだかんな!