「なになに、かずくんったら朝からお出迎え?一緒にシャワー浴びる?」
俺がデレデレと鼻の下を伸ばしてそう言ったら、更に頭をひと叩きされた。
「相葉くん、走ってきたってのにまだ寝ぼけてんの?なんで俺までシャワー浴びんのよ」
かずくんはプチトマトが入ったザルを俺に押しつけてくる。小さい頃から庭で育ててるプチトマト、今ではかずくんのお母さんの趣味になっていた。
「かずくん、つめたい」
「はい?なんて?相葉くん」
「………ニノ、つめたい」
そう呼び直したら満足そうな顔。
なんだよ、「相葉くん」「相葉くん」って。いいだろ二人だけの時くらいさあ、「まーくん」でよくない?「かずくん」って呼ばせてよ。
俺はそう思うのに、かずくんは容赦ない。
前に揶揄われて以来封印された「まーくん」呼び。
あのちょっと丸まっこい舌足らずな「まーくん」がめっちゃ好きだったのに。
「ラブラブぅ」とか言われたらしいけど、俺はそれで全然かまわない、てか、間違ってないだろ。
……ホントにこの頃、かずくんが冷たい気がする。
前はもう、俺がいないと夜も明けないみたいだったのにさあ。もう違うのかな…。
しょんぼり黙り込んだ俺に、
「はい、あーん」
「!!」
かずくんがプチトマトを摘んで俺の口に入れてくれた。笑ってる茶色の瞳が眩しい。
「あひはと…」
お礼を言おうとして口をモゴモゴさせたら、潰れたプチトマトから思い切り汁が飛んで、二人でうきゃうきゃ騒ぐ。
「朝からうっさいなー」
少し掠れた声に振り返ると、玄関から弟のゆうくんが顔をだしていた。まだ小学六年生なのに声変わりが始まってるみたいなところといい、ほんとナマイキなんだから。
ゆうくんはかずくんのところにやってきて、「オレも食べたい」とプチトマトを指さした。
「はい、どうぞ」
かずくんは、「これが一番大きそう」とひとつ摘んで差し出した。ゆうくんはワンテンポ遅れてそれを受け取る。
ふっふっふっ。俺は知ってるぞ。
今、自分も「あーん」してもらいたかったんだろ。
残念でした!そーゆーのは俺の特権なんだからな。
ざまーみろ。