赤いサンダルはお姉ちゃんのおさがりだろうか。
今日もあのハデなドラえもんパンツかな。

そんなどうでもいい事ばかり頭に浮かぶ。
かずくんは手にソフトクリームを持っていた。
なんだか嫌な予感がすると思ったら、案の定けっつまずいてソフトクリームの上半分くらいを落としてしまった。
ああぁ、ボーっとしてるから。
かずくんは「あっ!」と言う顔をして、あのコハク色の瞳を盛大にうるうるさせた。

(泣くな、泣くな!)

そう心の中で念じる。
口をへの字にして耐えている様子に、僕が手に汗を握ってしまった。
しゃがんだお母さんに何か言われて、かずくんが涙目のままニコッと笑う。それを見て僕は肩の力を抜いたその時、車がゆっくり進み出した。

「あっ…」
「え?さっきからなぁに?」

ガラス窓の向こうのかずくんが左に流れていく。
僕はその姿をできる限り目で追おうと、窓に顔を押しつけた。
一瞬、かずくんがこっちを見た。
まるでスローモーションのようにハッキリと涙目の笑顔が僕の目に映る。
と思った次の瞬間、あっという間に遠ざかって見えなくなってしまった。

「かなた?」
「……なんでもない」

僕はシートに座り直して前を向いた。
かずくんの眩しい笑顔が目に焼きついている。
僕は今ごろ気がついた。

僕はあの子に「泣くな」「泣くな」って言っていたけど、それは、泣くとめんどくさいし、なにより黒目が速攻飛んでくるからだった。
でもホントのほんとは、あの子の笑顔が見たいが為だったのかもしれない。

まぁ、ほとんどの笑顔が黒目に向けられたものだったけどさ。だからこそ、あいつがあの子にした事が許せない。
またあんな場面に出くわす事があったら、やっぱり迷わず蹴り飛ばすからな!