あれからしばらく幼稚園に行っていない。


黒目は肩のあたりの骨、さこつ?だったかを折ってしまっていて手術になったと聞いた。
頭の傷はたいしたことなく、何針か縫うだけで済んだらしい。頭の骨や脳ミソに異常がなくてよかったとお母さんが言っていた。

確かにそんなケガをさせてしまった事は悪かったと思っている。けど、僕はずっと怒っていた。
だって元はと言えば自分のせいだろ。
あんな目に合うのはバチが当たったってことじゃないか。流行りのカードゲームにある罠カード「自業自得」をあいつはくらったんだ。
そりゃあそこまで痛い思いをする必要はなかったかもしれないけどさ。

「なにが原因なの?なにがあったの」

お母さんはそう繰り返して、ずっと大騒ぎだ。
でも僕が何も答えず黙ったままなので、泣いたり、怒ったり、なだめすかしたりして、ケンカの理由を聞き出そうとやっきになってる。お母さんが騒げば騒ぐほど、僕は余計に貝になった。

そもそも事の起こりは、あの暴れん坊たちがぶつかってきて、かずくんの誕生日プレゼントのクレヨンがバラバラになったことだったけど、もはやそれは些細な事として吹っ飛んでしまっていた。
黒目が大ケガをしたことで、話の中心は僕と黒目の間でなにがあったのか、になっている。

「あの子、年長さんよね。かなたとなんの関わりがあるの?あの子になにかされたの?」

お母さんの質問は延々と無限ループだ。
バチが当たったんだよって言ったらどんな顔をするんだろう。

でも僕は黙っていた。
だって言えない。言えるわけがない。
あいつがあの子にキスしていたなんて。
「俺のお嫁さんになる?」
って、どういうことだよ。
おかしいだろ、おかしいんだって。
だけどこんなこと言ってしまったら、今度はかずくんが変な目で見られてしまう。
おもらししたあの子を見るお母さんの目が思い出される。きっとろくな事にならない。
それは絶対ダメだ。あの子はなにも悪くないのに、巻き添えをくうなんて。

僕はグッと唇を噛んだ。
そしてふと思う。
あの子はなんて答えたんだろう。
お嫁さんになるかなんて気持ち悪いことを聞かれて、返事をしたんだろうか。

「かなた!聞いてるの!?」

お母さんが大きな声を出した時、お父さんが部屋に入ってきた。
そして、僕と二人で話したいと言ったんだ。