そのあとのお弁当の時間、僕は密かに緊張していた。椅子に固まったまま、横目でかずくんがお弁当箱を持って隣に座るのを確認する。僕の半分くらいしかない小さなお弁当箱。椅子の上で少し浮きぎみな足をぷらぷらさせながらかずくんが小さな手を合わせた。
「お父様お母様お弁当ありがとうございます。よくかんで…」長いながいいただきますの後、かずくんはうれしそうにハンバーグを食べ始めた。
機嫌が直っているのにホッとすると同時に、僕は大きな発見をする。

おもらししたかずくんの事がイヤじゃない!

僕は汚いのが大嫌いだ。汚れた床も手洗い場も嫌いだし、トイレなんて最悪だ。
一度公園のトイレに行ったらあまりの汚さに驚いて、近くのキレイなお店のトイレまで猛ダッシュしたこともある。あの時はほんとに死ぬかと思った。
お父さんが「かなたはケッペキショウだからな」と言うからそのケッペキショウなんだろう。
だから年少の頃でも、おもらしなんかした奴がいようものなら、絶対近づかなかったし、口をきくのも嫌だったくらいだ。

でもなんでだろう。
かずくんの事は別にイヤじゃない。
そんなことがあるなんて。僕は僕自身の変化にびっくりする。そりゃ、あの汚れたぞうきんにはさすがに触れないけどさ。

僕が思わぬ発見に感動しているところに、やっぱりあいつはやって来る。
いつもより早くないか。あいつはお弁当、どんなスピードで食べてんだよ。丸のみか?そういうの、おなかによくないんだぞ。そう思ったら、なんだかまたおなかの調子があやしくなってきた。

「あーん」

あいかわらず隣では、例の星型にんじんのやり取りが繰り返されていた。そして毎回アホかと僕はイライラしてしまうんだ。
おなかと相談しながら食べていた僕より早く食べ終わったかずくんは、黒目にうながされて体操服に着替えはじめた。さくら組はこのあと外で体操だ。

「まーくん、あのね」

かずくんのふわふわした声が聞こえる。
また着替えさせてもらってるだろ。見なくても、かずくんがあいつの腕にまとわりついてるところが想像できてしまう。
それから僕は少し急いでお弁当をたいらげた。