だいたいあの子もあの子だ。
甘やかしてくれるからって、あんなに頼りっきりじゃ絶対あとで困るに決まってる。
家ではどうしてるんだろう。やっぱりお母さんがなんでもしてくれるのか、それとも実は自分でできるのかもしれないな。そうであってくれ、いや、そうあるべきだろう。
黒目の奴はやり過ぎなんだよ。
ぶつぶつ考えている僕の前で、かずくんにでんぐり返しの順番がまわってきた。
今日の体操クラブはマット運動。
いつもほわほわしているかずくん。たかがでんぐり返しとはいえ、大丈夫だろうか。失敗してまたぐずぐず泣くんじゃないかとヒヤヒヤする。また黒目が出番だとばかりに張り切っちゃうだろ。
かずくんはマットに小さい手をつくと、くるりと回転した。足先まで揃ったとてもキレイなでんぐり返し。僕はポカンと見とれてしまった。
意外だ。
想像していたよりずっと器用なのかもしれない。
先生に褒められたかずくんは、耳だけ赤くして笑みを見せると、そのまま自分の列ではなく黒目のところへ走っていった。
違うだろ。なんでそっちに戻るんだよ。
うれしそうに腕を絡めたりして気持ち悪いな。
上手くいっても失敗しても、結局ベタベタするんじゃないか。気にした僕がバカだった。
僕は鼻息荒くでんぐり返しを続けて二回して、最後立ち上がり腕を広げてビシッとポーズを決めてやった。
「おお、いいね!」
顔の浅黒い体操の先生が拍手してくれて、つられるように何人かが手を叩いてくれた。その時チラリと見たかずくんは、黒目と目を合わせて楽しそうに笑いあっていた。
先生にとても褒められたのに、僕は全然うれしくなかった。