今日も小雨が降っている。
こんな日は外遊びができないから、元気が余ってる奴らが教室で暴れたりして全く落ち着かない。

製作の時間が始まってだいぶ静かになったが、来月の母の日のためにお母さんの絵と、カーネーションの花を色紙で作らなければならない。
こんなふうに机に座ってなにかする時は、お弁当の時と同じくかずくんの隣だ。横目で確認すると、かずくんは画用紙に熱心に向かっている。
僕はあらためて自分の画用紙を見た。
絵は苦手だ。
僕はいろんな習い事をしているが、絵の教室は超絶つまらなかった。何をどう描けばいいのかさっぱりわからなかったし、赤い丸を描けば、先生は勝手にりんごとか決めつけるし。別に描かなくても写真に撮ればいいじゃないかと思う。
お母さんは残念そうだったけど、英語とピアノとプールに行ってるだけで充分だろ。そのうち、こっちの幼稚園での体操クラブにも入るらしいんだしさ。

でもお母さんのことはキレイに描きたい。だって本当にキレイなんだから。
肌色のクレヨンを持って、いざ!画用紙に向かうも、どこから取りかかればいいのか。
「…困ったな」
もてあまして、隣のかずくんの画用紙を覗いた。

「……おい。なんだそれは」

そこには大きな丸い物体が描かれていて、青いクレヨンで塗りつぶしているところだった。

「ん〜?ドラえもんだよ」
「そんなことはわかってる。なんでドラえもんなんか描いてるんだ」
「僕、ドラえもん大好きなの。春休み映画観にいったんだよ!」

どうせ黒目と一緒にだろ。うれしそうな顔してさ。
いや違う、そうじゃない。おまえのお母さんはドラえもんなのかって言ってんだよ。
やっぱり話が通じない。もはや僕がおかしいのか。
今度はスイカみたいな口の部分を塗るつもりらしく、赤いクレヨンに持ち替えてる。
その時、かずくんのクレヨンがかなり使い込まれていて、箱に並んだクレヨンがでこぼこの階段を作っていることに気がついた。
聞けば、お姉ちゃんのお下がりだという。

そうか。
あの赤い長靴もお姉ちゃんのお古だったのか。
黄色の傘に黄色のレインコート、足元だけ妙に目立つ赤い長靴。濡れたくつ下としょんぼりするかずくんの白い顔…。

「あら!かずくん、ドラえもん描いたの。上手ねぇ!」

先生の声で現実に引き戻された。
なんだか調子が狂うな。
この子のせいなのか。いつもぼーっとしてたり、ほわほわしてるから、僕と時間の流れが違うのかもしれない。
僕はため息をついてまた画用紙と向き合った。