かずくんは男の子とも女の子とも遊ぶ。
黒目が一緒の時はもっぱら外でボール遊びをしたり、遊具で遊んだりしている。砂場遊びをしているところはめったに見ないから、手が汚れるのがイヤなのかもしれない。それは僕も同じだ。
教室で女の子たちと遊ぶ時は、おままごとに付き合わされているのをよく見かける。お父さん役かと思いきや、どうもペットのわんこの役らしい。
「犬かよ…」
まぁ、見た目わんこに似てるもんな。そう納得して思わずつぶやくと、それを聞きつけた背の高い女の子が、「赤ちゃん役をしてほしかったけど、犬がいいって言われたんだよ」と教えてくれた。
赤ちゃん!まさにお似合いじゃないか。
毎日黒目に、赤ちゃん並にお世話されてるんだから。どうせなら世話好きの女の子にでもやってもらえばいいのに。

そのわんこは、今日は園庭のはしっこで座り込んでいた。周りの女子たちのおしゃべりにも加わらず、黙々となにかしている。今日のおままごとはピクニックに来ている設定のようだ。
かずくんわんこは、シロツメクサの花かんむりを頭にのせている。女の子たちが作ったんだろう。
僕が蹴ったボールを追いかけるふりして近づくと、
「お父さん役、やらない?」と女の子に誘われた。冗談じゃない。おままごとなんかやってられるか。
無視してかずくんに話しかけた。

「なにしてるんだ」

かずくんはビクッとして動きを止めた。
そして下を向いたまま小さな声で答えた。

「四つ葉…のクローバー、探してるの」
「よつば?」
「なんかね、見つけるといい事あるんだって」

そう言ってようやく僕の顔を見上げた。
コハク色の瞳がキラキラしてキレイだった。

「へ、へぇ…」

自分でもマヌケた声が出てしまった。
かずくんはまた下を向いて、足元のクローバーの茂みの中を探った。よく見れば右手にひとつ、四つ葉らしきものを持っている。

「もう見つけてるじゃないか」
「…もうひとつほしいから」
「ふーん」

案外欲張りだな。
そう思って自分の足元を見ると、本当に偶然なんだが、四つ葉のクローバーがあったんだ。
ボールをよけてその四つ葉を摘む。しげしげと眺めてみてもやっぱり葉っぱが四枚だ。

「これ…」
「あったあ!!」

僕が見つけた四つ葉を差し出す前に、かずくんがまた見つけたらしく、大きな声を上げた。そして僕のほうを向くと、ニコッとうれしそうに笑った。僕はどんな顔をしていたのか、かずくんはハッとして少し顔を赤らめた。

「えっと、これ、あげる」
「え?ふたついるんじゃないのか」
「うん。でももうひとつ、探すから」
「…別に、いらない」

そう断るとかずくんはガッカリしたのか口をつぐんでしまった。でもせっかく見つけたのに僕がもらう理由はない。それよりもさっき見つけた四つ葉を渡そうかと迷っているところに、またもやあいつが近づいてきた。そしていち早くそれをかずくんが発見する。

「まーくん!」
「なにしてんの?」
「これ!四つ葉のクローバー!」

かずくんは手のひらの上の四つ葉をひとつ大事そうにつまんで、黒目に差しだした。

「これ、まーくんの!」

花かんむりをつけたかずくんの、弾けるような笑顔が眩しい。その笑顔を向けられた黒目も満面の笑みで、「ありがとう!」と小さい肩を抱きしめるそぶりをみせた。

僕は手の中の四つ葉をにぎりしめ、黙ってボールを蹴った。