あの子の観察を始めてすぐに気がついた。

あいつがいる。
いつもいる。
とにかくいる!

あの白目がない真っ黒な目をしたあいつ。
初めて会った時は名札が見えなかったけど、てっきり同じさくら組なんだろうと思ってた。
そしたら同じクラスどころか、年中組ですらなく、なんと年長組だったのには驚いた。
そして、あの子がさくら組にいない時は、決まってあいつのクラスに潜り込んでいるということもわかってきた。
どうなっているんだ、これは。

そう思っていたが、観察の結果あっけなくその理由が判明する。なぜならば、あの子が、

すぐに泣く。
いつも泣いてる。
今も泣いている!

泣き虫にもほどがあるだろ。
僕だったら「男のくせに、泣くな!」と大目玉をくらうところだぞ。「泣く」なんて恥ずかしくないのかよ。あの子のお母さんはガッカリした顔をしないのだろうか。僕はお父さんのキビシイ表情を思い出して唇を噛んだ。

今だって、ちょっと押されて肘がお道具入れの棚に当たっただけだし。ちょっと血が滲んだくらいのすり傷、それくらいで泣くか?赤ちゃんかよ。
イライラしながらも、僕にはわかっている。
来るぞ、くるぞ、すぐに来るぞ。

「かずくん!」

ほら来た。黒目のあいつ。
実際、年少組でもさくら組でも泣くやつはたくさんいる。まぁ、あの子は泣きすぎだけど決して声は大きくない。
なのに黒目はすぐに聞きつけて飛んでくる。あいつの耳は特別なのか。

「ぶつけたの?先生に絆創膏貼ってもらう?」

アホか。そんな傷、ほっとけば勝手に治る。
だいたいさ、泣けばおまえが飛んでくるってわかってるから泣くんだろ。

「まーくん…」

コハクみたいな茶色の目をいっぱいの涙でうるうるさせて、黒目を見上げるかずくん。
ますます僕はイライラした。