「30年かぁ。せいさんって一途だなあ」
「まぁ、取っかえ引っ変えいろんな人と付き合ってたらしいけどね」
「えぇ?」

げ。マジか。
マスターがそう言っていたとまーくんは笑うけど、俺はなんだか釈然としない。

「元カレ達から電話がかかってくるってさ」
「なんか、ショック」
「30年も振られ続けてたんだからしかたないよ」

そんな顔しないのと頭をぽんぽんされる。
そりゃそうか。そうだよな、純愛小説じゃないんだし、受け入れてくれる見込みもなかったんだもんな。未来が見えるわけでもないんだし。
はるか昔に離ればなれになった自分の片割れを探し出すのは、とても難しいのかもしれない。
そこまで考えて、ふと思い当たる。

「え。じゃあまーくんも?俺が大事な約束忘れていた間、誰か他の人と…」

そう思ったらもう口からポロリと言葉が出てしまった。それを聞いたまーくんは、眉を思い切り上げてから大きなため息をついた。

「そんなことあると思う?」
「え、いや、そういうわけじゃ」
「むしろ他の子と付き合ってたの、かずの方だろ!中学の時っ」

忘れてんだからしかたないけどさあ!とブツブツ言われて焦る。確かにちょっとだけそんなこともあった。でもよくわからないうちにフラれたんだよな。あんなでも付き合っていたというのか疑問だけど。

「ごごごめん、俺…」

焦って狼狽える俺の肩を、まーくんが自転車に跨ったまま抱き寄せる。

「冗談だよ。大丈夫、俺、どんな時も見えないところで繋がってるってわかってたから」

急に目の前がぼやけた。
まーくん、マスターと同じこと言ってる。
ずっとずっと昔から繋がっていたんだよね、俺たち。見つけてくれてよかった。

「なぁに、泣いてんの」

泣いてないもんと小声で答えて、まーくんのシャツで涙と鼻水を拭いた。

「…今日、カテキョ終わったらまーくん家に行っても、いい?」

まーくんがとびきりの笑顔で、目をキラキラさせた。だから俺は慌てて付け足した。

「や、今日は絶対シないからねっ!」
「でも泊まるんでしょ」
「一緒に寝るけどシないっ」
「なぁんで」

なんでじゃないよ。
今日どんだけダルかったと思ってんのよ。
軽く睨むとごめんごめんとまた頭をぽんぽんしてくる。ほらまた二回繰り返してるっての。

ねぇ、まーくん。
これから長いんだ、俺たち。
ゆっくり行こうよ。
焦らなくても明日は来るんだからさ!


俺たちはまたペダルを元気よく踏み込んだ。






おしまい♡