見つめていたドアがカラコロと音を立てて開き、買い物袋を提げたせいさんとまーくんが姿を現した。

「えっ」
「あれ?」

俺とまーくんは同時に声をあげていた。

「なんでかずがいんの?今日は翔ちゃんのカテキョの日だろ。遅くなると夕飯後回しになるよ」

うわ、もうそんな時間?
俺は慌ててコーヒー代を払い、リュックを背負う。急いで帰ろうとする俺の腕をとって、「俺も帰るからちょっと待ってて」とまーくんが言った。

「えぇ?今来たのに?用があるんじゃないの」
「忘れ物取りに来ただけだから」

バタバタする俺たちをマスターとせいさんがニコニコ眺めている。

「がんばれよ」

マスターが笑顔で手を振った。
イキナリの激励にまーくんはきょとんとしてる。
さっきまでの話の流れから、その意味を理解している俺は、ぺこりと頭をさげた。
耳が勝手に赤くなるのがわかったから、まーくんの手を掴んで外へ出た。

「なに、今の」
「あとで話すよ」
「なになに?なにをがんばるの」

うるさいまーくんをスルーして、自転車をさっさと漕ぎだす。「ねえぇって!」一瞬遠ざかった声が、あっという間に追いついてきた。
ほんとにせっかちなんだから。
俺はなんだか楽しくなって、自転車を漕ぐスピードをぐんと落とし、行き過ぎそうになって慌ててブレーキをかけるまーくんを見てニマニマした。

「なんっ…」
「家族ってさあ」
「はあ?」

俺の突拍子もない言葉にまーくんが目を白黒させる。そのハテナ顔が可愛いんだよね。

「血の繋がりなんて必要なのかな」

まーくんが俺をじっと見つめて、ひょいと長い手を伸ばし俺のおデコに当ててきた。

「なんなの、急に。大丈夫?」
「熱なんかないよっ。そう思っただけ」
「もしかしてマスターたちの事?家族になりたいって言ってたもんね」

俺は当てられた手のひらにおデコをぐりぐり擦りつける。俺のおデコよりまーくんの手のほうがずっと温かかった。

「まぁ…、血の繋がりは強いんじゃない?それなりにさ。家族って感じでわかりやすいし」
「でもさぁ、お父さんお母さんって血の繋がりないじゃん。元は他人でしょ」
「たしかに!」

せいさんはえりかちゃんのお母さんではないし、全くの他人だ。だけど育ての親で、マスターのパートナーなのだから家族と言えるんじゃないのかな。
そう思いつつも、周りの目が気になるのもわかるんだ。「家族」ということは、自分ひとりではないということなのだから。

堂々としているマスターたちが眩しかった。
それが30年ということなのかもしれない。