「何バカなこと言ってんだって、それはもう鬼みたいに怒ってた」
「この子を幸せにしなくてどうすんだ!」って俺の腕の中からえりかをひったくったはいいが、泣き出したえりかにビビってあたふたしていたあいつ。どうしてよいやら、抱えた腕を宙に浮かせた状態で固まっていたあいつ。何とかしようと必死になだめる
汗だくな顔が忘れられない。
「一緒に育てようと言ってくれたんだ」
そう話してくれたマスターはとてもとても優しい顔をしていた。
「会わなかった日も、離れていた時も、見えなくてもちゃんと繋がっていたんだよ、俺たち。それに気がつくまで30年もかかってしまったのは申し訳なかったけど、俺には必要な30年だったと思うんだ」
静かにそう言うマスターの前で、俺は黙って手の中に包んだコーヒーカップを見つめていた。
顔を上げると泣いてるのがバレそうで恥ずかしかったから。今すぐまーくんに会いたいと心の底から願った。会ってその腕に甘えたい。
「だから、そんなに慌てることないよ。君たちはもう気づきあってるのだし、人生はこれからだ。何があっても朝になれば陽は昇る。まっさらな明日が来るんだから、二人でゆっくり歩いていけばいいさ」
うん。ホントのこと言うと俺も結構まーくんのこと待たせちゃってるんだけど、せっかちさんに伝えておくね。
とか言う俺も実はせっかちなところがあるみたいで、すぐにでもまーくんの声が聞きたくてケータイを取り出した。
発信音が流れたと思ったら、お店のドアの外から着信音が聞こえてきて、俺はハッとドアのほうを振り返った。