半分寝ぼけた頭で学校に行った。今日の授業は午前中のみだったから助かった。
久々だったせいか身体もだるい。まーくんは朝から元気いっぱい笑顔爆発だったけどな。やっぱり受け入れるほうが少し負担が大きいのかもしれない。
一度体験させて思い知ってもらおうかなどと不穏なことをぼんやり考えていたら、

「おまえなぁ。そーゆう色っぽい顔すんなよ」

目の前に座っていた生田にほっぺたをむにむにされた。午後からは修学旅行係の手伝いで、マスターの喫茶店に来ていた。
「すっごい伸びるな、おまえのほっぺ!」じゃないんだよ。

「なんだそれ!してないし!」

文句を言ったが、生田は「ちくしょぉ、リア充はいいよなあ」と机にのの字を書いている。「修学旅行で彼女、できますよ」と同じ係の神木がニコニコなぐさめた。
色っぽい顔ってなんだ?俺、そんな顔をしてた?
ヒヤヒヤしながらほっぺたを撫でていたら、マスターと目が合った。
ニッコリされて自然とほっぺたが熱くなる。
そうだ、マスターは俺とまーくんのこと知ってるんだった。

「マジメにやれ」

一緒に手伝っている本郷が一喝。
そうだそうだ。俺と本郷は学級委員であって、修学旅行係じゃないんだからな。
そう思って本郷を見たら、生田だけでなく俺にも怒ってる様子じゃん。なんでだよぉ!
それから四人で黙々と作業したのだった。


三人が帰ったあと、俺はマスターと少し話をした。今日はバイトの日ではないのでまーくんがおらず、マスターと二人で話すのは初めてかもしれない。

「今日、せいさんは?」
「美容院が決まってね、仕事に行ってるよ」

元々えりかちゃんが小学生になったら仕事に復帰するつもりだったんだって。近くの美容院で、パートから始めるらしい。まーくんのバイトの日が増えるかもとマスターが言っていた。

「マスターはさ、せいさんのこと…」

いつから好きだった?
本当はずっと好きだったんじゃない?
そうでなきゃ今、パートナーに選べないよね。
そう聞きたかったけど、俺は口ごもってしまった。
踏み込みすぎかとも思ったから。
マスターは少し笑った。

「相葉くんと付き合ってるんだってね。彼、君のことばっかり話すから薄々感じてたよ」
「…もー、あいつはぁ」
「なんだかいいなぁと思ってね。これから楽しみじゃない。ちょっと焦りぎみな気もするけどね」

わぁ、マスターにも伝わってるじゃん。
まーくんは急ぎすぎなんだよ、やっぱり。

「先は長いんだから、慌てなくていいと思うよ」
「あの…、聞いてもいいですか?」
「うん?」
「もし30年前に戻れたとしたら、せいさんとお付き合いしたかったですか」

30年前はまださすがに子どもだったけどねと、マスターは笑いながら話してくれた。
俺はじっと耳を傾けていた。