身体を起こしたまーくんが、そっと俺を抱きしめる。ここ外だよって言ってもどうせ聞きやしないだだろうし、辺りも薄暗いから、もういいやって黙っていた。俺も少し感覚バカになってるかも。
まーくんの匂いに包まれてうっとりする。
でも俺の手は自転車のハンドルを握っていたからしがみつけなかった。

「教師の資格取って、お金いっぱい貯めて、早くかずと一緒に暮らしたい。バイトもっと増やすかなあ、やっぱカテキョかな、深夜のも時給いい…」
「ちょっ、ちょっと待って!」

どんだけせっかちなんだよ。
こいつは放っておくと本当にがんばり過ぎるから心配なんだ。目標立てるとそこに向かって全力疾走してしまって、自分で無理してるの気がつかないっていう、困った全力バカ男になる。
俺が気をつけておかないと。

「そんな焦んなって。俺、まだ高校生!」
「わかってるよ。でもマスターたちみたいに30年たっちゃうかもしんないだろっ。30年だよ?そんなに待てないよ」
「大げさだなぁ、俺たちは違うだろ」

もう一緒に歩いていくって確かめ合ってるでしょ。
スタートラインが違うと言ったら、

「俺はもう10年以上待ってんだよな…」

そう言われて、あっ!と気がつく。
そうだった。俺が大事なこと忘れていたから、すでに長いこと待たせてたんだった。
申し訳なくてうなだれる。

「ごめんね、俺のせいで」
「責めてるんじゃないのっ。思っているよりずっと、時が経つのは早いって言ってんの。うかうかしてたらマジであっという間だよ。だからできることはやっておきたいし、あとから後悔するのは嫌だかんね!」
「そうだね、うん」

俺を抱く腕に力がこもる。
俺もおでこをまーくんに擦りつけた。
思い出せてよかった。思い出せてなかったら、もっと待たせていただろう。そうなってくると、30年というのも大げさじゃないのかもしれない。