気がつくと時計は6時前をさしていた。
そろそろえりかちゃんを学童にお迎えに行く時間なのに、まーくんはお店の常連であるオバチャンたちに捕まって、あれこれ世話を焼いている。
俺は目の前にいたマスターに声をかけた。

「えりかちゃんのお迎えはいいの?またあやしーいストーカーに狙われるかもよ」

チラと横山を見ながら言うと、「だからちゃうねんて!もー、勘弁してや」と顔の前でいそがしく手を振るから、ニヤニヤしてしまった。

「大丈夫、今はね…」

マスターが言ってるそばを、エプロンをはずしたせいさんがすり抜けていく。

「こいつが迎えに行ってるんだよ」

隠したり、ごまかしたりしない。
変に思う人もいるだろうが、堂々としていよう。

「俺も開き直っちゃった」

せいさんが言った。

「他の親御さんたちとも仲良くなれれば一番いいし、それでもえりかをいじめる奴がいるなら学校でも相手の家でも押しかけるつもり」
「まぁまぁ、そんなに気張らなくていいから」

はりきるせいさんの背中をマスターがぽんぽんする。そんな二人を見て、俺はすごくうらやましくなってしまった。
俺とまーくんもこんなふうになるのかな。
……なれるのかな。
どうしたって、この二人と自分たちを重ねて見ずにはいられなかった。


まーくんのバイトが終わるまで待つ。
本郷は俺の数学を教え終わるとさっさと帰ってしまった。せいさんに連れられて帰ってきたえりかちゃんは、俺のところへ走り寄ってきてハイタッチしてから二階への階段を駆け上がっていった。

「なぁにニヤけてんの」
「へぇ?」

まーくんに軽いヘッドロックを喰らう。
え、俺ニヤけてた?
まぁあれだけ可愛いんだからしかたなくない?別にそういう趣味なわけじゃないし。

「あとでお仕置きな」

耳元で囁かれてヘンな声が出た。
こわいこわい、怖すぎだっての!