「へぇ?だって俺、部外者ですもん。ソコはやっぱり身内で水入らずやないと!」
一人残された戸田教授、えりかちゃんのおじいちゃんが額に汗をかいていたと聞かされても、横山は笑顔で断言した。
実際、コンクリートのごとく固まっていた教授の顔面も、孫のえりかちゃんの前では総崩れだったとマスターもうれしそうに言った。
「メロメロやないですか!うっわ、そんなとこ見たことない。見てみたかったわ〜」
何を目論んでいるやら、その時の写メはないのかと横山がマスターに詰め寄っている。
そこへ二階からせいさんがおりてきた。
いつもと変わらない穏やかな笑顔だったけど、俺は少し心配になって声をかけた。
「おじいちゃんに会えたんだね。大丈夫だった?」
「…俺が作ったサンドイッチ、食べてくれたよ。目は合わせてもらえなかったけどね」
残念そうな口ぶりではあったけど、その目元はうれしそうにほころんでいる。「あれは照れ隠しなんだから気にするな」とマスターが口をはさんだ。
せいさんはゆっくり首を振って、
「会ってくれただけでいいんだ。しかたないよ、えりかの新しいママがこんなおっさんじゃね」
そんな。
そう思っても、なんと返したらいいのか。
俺は口ごもってしまった。
「会って当然だ」
本郷が静かに言った。
横山が来てからずっと黙ってコーヒーを飲んでいたのに急に喋るから、ハッとして本郷を見た。
「親でもないのに、性別まで変えようとしたんだぞ。そんな変人、この世のどこを探したって他にいやしないだろ。そういうのを有難いって言うんだ」
そう言って、本郷はまたコーヒーを飲んだ。
マスターがせいさんの背中をぽんぽんする。せいさんは少し恥ずかしそうにマスターに笑いかけた。
「おまえ、案外いい奴なんだねっ」
「案外ってなんだ」
せっかくまーくんが褒めたのに、本郷はムッとした声で言い返してる。
でも本当に本郷って時々妙に大人なんだよなぁ。