腰に回されたまーくんの手が、明らかに目的を持って動くから、全身ぞくぞくしてじっとしていられない。シャツの中に入ってきて、直に肌に触れられると鼻にかかったヘンな声が出てしまった。
どうしたって心拍数が爆上がりだ。

「まぁ、くんっ…」

勝手に反応する身体に、ヤバい、と思ったら急にまーくんの腕が振りほどかれ突き放された。
触れ合って熱くなっていた身体に冷たい夜の空気が入り込んでハッとする。

「なん、なんなんだよ」

中途半端で放り出されて、なにがなんだか頭がついていかない。腹が立ってつい咎め口調になる。
もう、もう、俺をどうしたいんだよ。

「物足りない?」
「は、ぁ!?」

当たり前だろ!と思ったけど、そう答えるのも癪で、涙目でまーくんを睨んだ。
まーくんは「物足りないよね」とほんの少し笑いを含ませた声で言った。そして、さっきまでと同じ熱い手で俺のほっぺたを撫でた。
声とは裏腹に瞳は笑ってはいない。
いつもと違う雰囲気に戸惑い、小さな声で「まーくん…」とつぶやきかけた時、まーくんが口を開いた。

「かずと一緒に暮らしたい」

俺はどんな顔をしたんだろう。
まーくんの真剣な眼差しがふと柔らかくなる。

「今すぐって訳にはいかないけど。マスター達みたいに30年も待ってらんない」

その言葉でようやく言われた意味が飲み込めた。
下がりかけた体温が一気に上昇する。
俺だって考えたことないわけじゃない。でもそれは、子どもの頃の将来の夢みたいなもので、漠然としたイメージに過ぎなかった。憧れはするけれど、そこまでの道筋は特にないってやつ。
先の事だって、なんとかなるだろくらいにしか考えてなかったし、とりあえず目先の事に気を取られてばかりだ。

まーくんはこれからの事をちゃんと考えていたんだ。俺との未来も。
ただ憧れるだけじゃなくて、どうすれば実現できるのか模索する。

それが大人になるってことなのかな。