車庫の外を車が通り過ぎる。
近くの家でアオーンと犬が鳴いた。

それ以外自分の心臓の音しかしない。
静かな車庫で俺はまーくんに強い力で抱きすくめられていた。

「帰したくない。離れたくないよ」

うん、ここ俺ん家だけどね、なんて、前に似たような状況になった時は、そんなこと考えたけど、今回はそんな余裕がなぜかない。

「俺、かずとこうなってからだよ、こんなに色々考えるようになったの」
「え、俺?」
「そう。かずのせいだかんね」

俺のせいって。言い方よ。
そう軽口で言い返したかったのに、声がかすれて上手く話せない。そのうえ、まーくんの舌が潜り込んできて、頭の中の言葉がどこかに吹っ飛んでしまった。必死にまーくんにしがみつく。

「家に着くとさ、かずが一人でドアの向こうに帰っちゃうだろ。当たり前なんだけど、それがすごいヤダ。俺一人取り残されたみたいでさ」

ほとんど唇がくっついた状態で話すから、なんだか自分の口の中にじかに言葉が転がり込んでくるような錯覚を覚えた。

「帰したくない。今すぐ抱きたい」

そう言ったまーくんの手が制服のベルトにかかったから、さすがにギョッとしてその手を押さえた。
ウソだろ、こんなところで!?
どうしようどうしよう。

「まままままってっ、ちょっ」

まーくんの手が俺の前をするりと撫でる。
俺は一瞬息を止めて固まった。
と、その手は腰のほうへ移動していった。

「な、んだよっ。ふざけてんの!?」
「ふざけてないよ。抱きたいのはほんと」

どんだけ我慢してると思ってんの。

そんな言葉が口の中に放り込まれた。
息が苦しい。呼吸ってどうやってするんだっけ。
息の仕方を忘れてしまったみたいだ。