元々マスターが手をケガして困っていたところに、まーくんがバイトを申し出たのだから、言わば押しかけバイト。せいさんが家出して不在だったし、マスターもかなり助かってたとは思う。
マスターの手の傷も順調に回復してる上に、せいさんが戻ってきた今、バイトはもう必要ないんじゃないかって気がついたんだ。
結局人件費が一番高いんだもん。

ぶつけた鼻をすりすり、そんなことを話す。
まーくんが振り向いて、大きな手で俺の鼻頭を撫でてくれた。でもその表情はボーゼンとしていて、案外撫でてくれてるのも無意識なのかもしれない。

「…そっか。そっかあ!」

そう言うとガックリしょげた。
「まだ上手いコーヒーの淹れ方、自分のもんにできてないんだけどなぁ」
「けどさ、家庭教師のバイトもしてるんでしょ?そっちの方が時給全然高いって言ってたよね。家庭教師増やせばさ、儲かるじゃん」
「そりゃそうだけどさ、あそこ気に入ってたんだけどなぁ。クビになると困るし」
「なんで?」と首を傾げたら、

「かずが本郷に数学教えてもらうところ、見張れないだろっ」

えぇー。
じゃあ、もう、生徒会室ででも教えてもらうかな。
西畑たちいるし。邪魔にならないようにすみっコのほうでさ。
正直ちょっとめんどくさいと思っちゃったけど、心配してブツブツ言ってるまーくんも好きだよ。

「またバイト探さなきゃな」

俺はため息をつくまーくんのおなかに腕を回し、ぴったりくっついて甘えた。

「なんでそんなにバイトすんの?」

まーくんは、おなかにある俺の手に自分の手を重ねてくれた。温かい手が気持ちいい。

「金、貯めたいんだよね」
「へ?なんで?」
「将来のため、かな」

俺はきょとんとまーくんを見上げた。
なんか意外。
将来って。
まーくんは学校の先生になるんじゃないの。
今からお金貯めるなんて、早くない?