幼稚園のころとはいえ、コイツにはイジメられた記憶しかない。
俺のことが嫌いだからだと思っていたが、実はそうでもない、ってかむしろ好き?だったらしいことが、つい最近わかった。
でもだからといって、無かったことにはできないよ。嫌なものはイヤだし、本郷のこと怖かったし。
せいさんがえりかちゃんを心配するのもわかるんだ。それが自分のせいだったとしたら尚更。
マスターのピンチに、即仕事辞めて駆けつけてくるせいさんだもん。
自分より大事な人を優先する人なんだ、きっと。
「それで女になるって、極端だろ。どうしておまえはいつも0か100なんだ」
マスターが頭を抱える。
せいさんは少し顔を赤くして、
「だって…もう離れたくないから」
と小さな声で言った。
その言葉に俺がドキドキしてしまった。
離れたくない。
わかる、その気持ち。
それが好きっていう気持ち。
俺は思わずまーくんの腰に腕を巻き付けた。
「お?」
さっきまでもがいていた俺が抱きついてきたからか、まーくんがうれしそうに笑った。
そしてあろうことか、チューしようとしてきたからさすがに頭をはたいて阻止する。
「バカなの?」
「そのバカは好きって意味だよね」
「なんでだよ」
小声でコソコソ話していたら、再び本郷にどつかれて、まーくんが「痛ぇ」と文句を言った。
マスターとせいさんの間に立っているえりかちゃんは、せいさんが「女になる」の意味がわかっているのかいないのか…、やり取りする二人の顔を交互に見ていた。
なかなか結論にたどり着けず、不毛な会話が続く中、横山が遠慮がちに話しかけた。
「あのぉ。ようわかりませんけど、『ママ』て呼ばんかったらええんちゃいます?」
みんなの視線が横山に集まる。
「いや、なんて言うか、『ママ』やから目立つんやないですか?まぁパパ二人ってのもそれなりにインパクトありますけど。なんなら名前で呼ぶんもありやないですか?『せいちゃん』とか」
そっか。
言われてみればそうかも。
確かにあのガタイのいいせいさんを「ママ」と呼ぶから余計に注目されちゃうよね。
なんで気がつかなかったんだろう。
内側ばかり見てると視野が狭くなるのかな。