「パパ!」
えりかちゃんがくるりとマスターに向き直る。
「ママになにか言った?」
「えっ」
「よそのママ見ていいなとか言ってない?ダメだよ、よそはよそだよ!」
マスターは大急ぎでぶんぶん手を振った。
「違う違う。パパは今のママが一番いいって言ったんだよ。変わらなくていいって」
えりかちゃんはこくんと頷くと、せいさんを見た。
「えりかも今のママがいい」
そう言うとせいさんの手を握って、もう片方の手でマスターの手を掴んだ。
「そんで、いつもみたいにぴょんぴょんしたい!」
狭いカウンターの中から二人を引っぱり出し、お店の真ん中でえりかちゃんは飛び跳ねた。
「高くして!もっとぉ!」
いつかの帰り道、まーくんと俺でえりかちゃんを持ち上げたのを思い出した。繋いだ手を高く差しあげる俺たち二人の間でえりかちゃんがキャッキャと飛び跳ねるから、まるで親子みたいな不思議な感覚になって、こそばゆい気持ちになったんだ。
「やっぱりママはこうでなくちゃ!」
えりかちゃんは満足そうに笑い、その可愛い顔で「かずなりじゃ力足んないもん」などと余計なことを口にする。
なんだよ、もう。一言多いっての。
むくれてると、まーくんが俺をギューッとして
「かずはそれでいいの。その分俺が鍛えてるから!そのままでいいんだよ」
どーゆー論理だよ、それ。
おかしいのに思わず惚れ直しそうになるじゃん。
そんなこと思ったなんて、くっついてる所から伝わりそうで、まーくんの腕から逃げ出そうともがいてみたが、ちっとも力を緩めてくれない。
「なにイチャイチャしてんだよ」
うしろから本郷にどつかれるのもかまわず、まーくんは俺を抱え込んで離さなかった。